一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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根の向き

質問者:   中学生   モリ
登録番号1514   登録日:2008-01-11
学校で「疑問に思ったことを調べる」という宿題がでました。それで、本を読んでいて、根はなぜ下に向いて伸びるのかという疑問に当りました。その中には、重力で下に伸びるというのと細胞の種類で下に伸びるということが書いてありました。でも、細胞の種類でというのはどういうことでしょうか。よくわからなかったので教えてください。ほかの理由があればそれもお願いします。
モリ 君

質問コーナーへようこそ。モリ君に代わって宿題の作文をしてあげる積もりはありませんが、「根が下の方に向いて伸びる(成長する)」と言う現象は植物 の成長にとって重要な事柄ですから、成長の基本的なことも含めて説明しましょう。

まず、「なぜ根は下方へ成長するのか」ということですが、科学はこのなぜという問いかけに答えることはできません。しかし、その理由を推定することはできます。ふつうの根の主な役割の一つは地中の水分と溶けている養分を吸収して植物体に供給することです。ですから、根はできるだけ地中深く伸びようとします。反対に地上部の茎は光合成ができるよう空に向って伸びようとします。植物の芽生えを水平にしてやると、早い時間で根は下方へ曲がり、茎は上方へ曲がり始めます。このような現象を、根は「正の重力屈性」を、茎は「負の重力屈性」を示すといいます。ここで、二つのことを問題にしてみましょう。
1.まず、根や茎が曲がって成長するとはどういうことかを考えてみます。植物の成長(ここでは伸長だけに着目します)は身体全体で起きるのではなく、根と茎の先端でだけおこなわれます。それぞれ根端及び茎頂と呼ばれます。ここでは、たえず細胞分裂が起きていて、細胞の数が増加します。これ等の細胞は先端から下方へ押しやられ、それぞれが決まった働きをする細胞へと変わります(このことを細胞が分化するという)。分裂してできた直後の細胞は小さいが、下方へ押しやられるに従って細胞は容積を増して大きくなり、特に縦の方向へ伸びた長い細胞になります。根や茎が伸びるのはこのように細胞が縦に大きくなる結果なのです。茎の場合は少し複雑ですが、根では構造が比較的単純で、先端の細胞分裂が盛んに起きている部分とそれに続く細胞が大きくなっている部分がおおまかにわけられ、前者を分裂帯、後者を伸長帯と呼びます。ところで、根が真っすぐ伸びるためには、細胞の伸長が均等に起きなければいけません。特に、根の一番外側の表皮とよばれる組織の細胞の伸長が重要な役割をはたします。根が真っすぐに成長しているときは、左半分と右半分の表皮の細胞の大きくなる速さが同じですが、もし、どちらかの側の表皮細胞の大きくなる速度が、より大きくなるか、あるいはより小さくなるかするとどうなるでしょうか。左側と右側で伸長速度のひずみができて、根はどちらかへ曲がることになるでしょう。つまり、根の屈曲は左右の表皮細胞の伸長速度が小さい方向へ曲がることになります。根を横に置いた場合は根の上側の表皮の細胞が伸長する速度が、下側よりも速くなり、その結果根は下側に向って屈曲することになります。
2.では、重力はどのように作用しているのでしょうか。そのことを説明ためには、植物細胞が大きくなる(伸長する)仕組みについて考えなければなりませんが、ここでは、植物細胞の伸長にはオーキシンという植物のホルモンが必要だということにとどめておきます。オーキシンは植物の体の中で合成され、茎や根の細胞の伸長をうながしていますが、根が必要とするオーキシンの濃度はとても低くく、通常の状態でよりも濃くなると、かえって細胞の伸長は阻害されてしまいます。根がまっすぐ縦に置かれている場合は、左右の表皮の細胞にはオーキシンが均等に供給されますので、細胞の伸長速度も左右で同じになり、根はまっすぐのび続けることができます。しかし、根を横に置いた場合は、オーキシンが根の下側により多く供給されるため、下側の表皮の細胞の成長がかえって阻害され、その結果根は下側に向けて屈曲します。ここまでくると、根の屈曲にはオーキシンが関わっており、重力はオーキシンの供給と関係があることは理解できたと思います。では、重力はオーキシンの供給にどのように影響しているのでしょうか。成長に必要なオーキシンは地上部で合成され、根に供給されます。根では根の中心部にある維管束という組織を通って根端へと輸送されます。そして、先端に来ると、先端の外側をおおっている根冠という帽子みたいな組織に入り、そこで左右均等に配分されて今度は表皮とその内側の皮層(ひそう)という部分を上に(根の付け根に向って)輸送されます。そして、伸長帯で細胞の伸長をうながすのです。根が横に置かれると、根冠の細胞は重力の方向を感知して、オーキシンを根の下側へより多く配分するようになります。その結果、下側の表皮細胞の伸長は阻害され、根は下方へ向きを変えることになるのです。根が重力を感知する仕組みは、完全には分かっていませんが、根冠の細胞に含まれるスタトリスというデンプン粒が関係していることが知られています。詳しいことは、高校の生物学で習うでしょう。質問コーナーでも関連する質問がとりあげられていますので、ちょっと難かしいかもしれませんが、参考にしてみて下さい.(登録番号0080、登録番号0258、登録番号0726、登録番号1234)。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2008-01-31