一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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大豆(種子)中の脂質とタンパク質について

質問者:   一般   さとみ
登録番号1529   登録日:2008-01-26
大豆には、豆類の中でも飛びぬけて多くの脂質、タンパク質が含まれていますが、脂質が多いのは他の豆類や穀物の種子がでんぷんとしてエネルギーを貯蔵するけれども大豆は脂質としてエネルギーを貯蔵するためと言われますが、でんぷんではなく脂質としてエネルギーを蓄えるメリットとはなんでしょうか?

(ヒトでは)でんぷんより脂質を分解する方が手間がかかる(乳化など)ように思えますが、大豆の種子中では脂質の分解はどのような工程を経て行われているのでしょうか?

また、脂質が多いことにより、分解にかかる手間が増えるため、酵素(の種類)を多く合成しなければならないなどの理由からタンパク質量(Nの量)が増えているのではないか?とも考えましたが、上手く資料が見つかりませんでした。
大豆の種子中にたんぱく質が多く含まれる理由を教えてください。

冒頭の繰り返しになりますが、大豆中のタンパク質もほとんどがエネルギーとして利用されるために分解されるとしたら相当な種類の酵素が必要になってくると思います。
このことから植物が脂質やタンパク質でエネルギーを貯蔵しておくメリットがよく理解出来ません。
回答のほどお願い致します。
さとみ さま

なぜダイズの種子に脂質が多いかについてのご質問ですが、食品となる種子ではアーモンド、ゴマ、ワタ、ヒマワリ、ラッカセイなどの種子にも脂質が多量に含まれています。糖やデンプンのような炭水化物は一般に(CH<sub>2</sub>O)で示すことができますが、これに対し脂質は(CH<sub>1~2</sub>)となります(厳密には脂質にも酸素が僅かに含まれていますが、ここでは無視します)。これから炭水化物と脂質の炭素含量を計算しますと, それぞれ40%, 85-92%となり、脂質の炭素含量は炭水化物の2倍以上になります。炭素の含量は、種子が発芽するときの代謝に必要な、呼吸によって生産できるATPの量、さらに、種子が発芽して光合成ができるように、また養分を吸収できるようにするための、新しい葉や根を作り上げるための代謝素材(基質)の量に比例します。言い換えれば、脂質は炭水化物に比べ重さ当たり2倍以上のエネルギーまたは代謝基質を生産することができます。従って、デンプンを主な貯蔵養分とする種子に比べ、脂質の多い種子は約半分の重さで、発芽に必要なエネルギーや素材を生産でき、種子の大きさを小さくすることができます。
 
 脂質の多い種子には上のような利点がありますが、ご質問にありますように、発芽するときに脂質を炭水化物に変換する必要があり、このためデンプンを主に貯蔵養分としている種子には含まれていない、グリオキシル酸サイクルをもっています。また、デンプンに比べ脂質は酸素に対し不安定であるため、種子の寿命を保つため脂質の酸化を抑えるトコフェロール(ビタミンE)などを種子ができるときに合成しています(天ぷら油は空気にさらすと酸化、品質劣化を受けやすいのに、ダイズ種子の脂質がはるかに安定なのはそのためです)。脂質を貯蔵養分とする種子はこの様な不利な点もありますが、発芽のときに、新しい葉や根を作り上げるときにどうしても必要な脂質を新たに合成する必要がないのは、利点の一つでしょう。

 タンパク質を貯蔵養分とする種子では、発芽のときのエネルギー(ATP)の生産量は重さ当たりでは炭水化物と同じであり、脂質に比べれば半分程度になります。このような種子が発芽するとき、タンパク質はいったん加水分解され、アミノ酸になります。これらのアミノ酸の一部は糖に変換されて呼吸によって発芽に必要なATPを合成しますが、大部分のアミノ酸は、発芽した時に新しい葉、根を作り上げるために必要な多種類の酵素タンパク質を合成するのに使われます。炭水化物、脂質が主な貯蔵養分の種子では酵素の合成に必要な20種のアミノ酸は、僅かに種子に含まれているタンパク質から得ることができますが、大部分は根から吸収した硝酸態またはアンモニア態の窒素を用いてアミノ酸を合成しなければなりません。従って、タンパク質を貯蔵養分とする種子では、根から窒素が吸収できない段階でも速やかに葉や根を作る上に必要な酵素タンパク質を合成することができます。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2008-02-18
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