質問者:
自営業
サンダーバード
登録番号1530
登録日:2008-01-27
ご多忙のところ大変、恐縮ですがクロガネモチの受粉について、質問させて頂くことをご容赦願います。みんなのひろば
市街化地域において植栽されたクロガネモチの受粉について
私の知る限り、近隣のお宅に植栽されているクロガネモチはほとんどが雌木ではないかと感じております。先日、庭師に尋ねたところ、一般的に販売、植栽されているクロガネモチは、ほとんどが、その実生苗に、すでに赤い実が沢山なることが分かっている木(ドナー?)から穂木を採り、接木し、増やしているとのことでした。
しかし、それに対応するクロガネモチの雄木はほとんど見あたらないのに、植栽されている雌木になぜ、あれだけ沢山の赤い実がつくのか不思議でなりません。ある木の名前に関する掲示板で皆様方にお伺いし、沢山のご意見を頂戴しましたが、まだ、結論らしいものは出ておりません。むしろ、より一層混迷の度合いを深めております。
ある方は下記のような調査結果を知らせてくれました。
「地元の街路樹のクロガネモチの雄木:雌木を5路線計りました。
36:63,0:48,2:37,1:48,0:48」
最初の路線では雄木:雌木は1:2くらいですが、毎日観察している感じでは他の4路線の数値(0:48,2:37,1:48,0:48)が一般的でないかと私は感じております。
それにもかかわらず、ほとんどすべての植栽されている雌木にたわわに赤い実がつくのはなぜかよく分かりません。
私は他のモチノキ科モチノキ属の花粉を受粉した可能性があるのではないかと考えております。しかし、素人の話し合いではこうした仮説を確認するのは不可能です。
質問1
雄木をほとんど見かけないにもかかわらず、雌木に赤い実が沢山つく理由をご教示願います。(なお、植栽されているクロガネモチから採種したすべての実の中に種が5〜6個ありました。)
質問2
クロガネモチは虫媒花ですか、それとも風媒花ですか?
以上の2点です。よろしくお願い致します。
サンダーバード さん
質問ありがとうございます。寡聞にしてこの現象については知りませんでしたので、この仲間の分類に詳しい京都大学博物館の永益英敏先生にもご教示を仰ぎつつ、調べてみました。
まず、答えの確実性が高い質問2の方からお答えします。「クロガネモチは虫媒花ですか、それとも風媒花ですか?」です。この仲間、すなわちモチノキ属では、ミツバチが花粉を媒介するケースが最も普通のようです。花からはかなりの蜜が出るという報告もあります。また奄美群島では、モチノキの花に広義のイエバエ群がやってくるという報告もあるそうです。いずれにせよ、虫媒に間違いないと思います。
さて次の質問が難題です。「雄木をほとんど見かけないにもかかわらず、雌木に赤い実が沢山つく理由」ですね。いろいろあたってはみたのですが、クロガネモチ自体に関する正式な報告を見つけられず、以下は近縁種で言われていることからの推測です。
そもそもクロガネモチと同じモチノキ属の結実については、あの進化論のダーウインも注目していたようです。Roberts A.N. とBoller C.A. (1948年)によると、セイヨウヒイラギの場合は、人工授粉すれば結実率が上がるケースも多いが、雌花に袋かけをしても少数の結実が見られること、種子を全く含まないのに紅く熟す実もあること、また人工授粉に頼らずともかなりの実を付ける系統・個体もあることが示されています。またそのことから、この種の場合、五十本の雌木につき一本程度雄木があれば、結実に十分ではないかと推定しています。
同様に『植木の実生と育て方』(山中寅文,1975年、誠文堂新光社刊)には「モチノキ属は雌雄異株(まれに雑居性のものもある)であるから採種用母樹に雄木がなければ完全な種子は得られないが,一般の観賞用には雌木だけで充分である」とあります。
またクロガネモチと同じ属の植物ヤバネヒイラギモチも、受粉しなくても結実するという報告があるようですし、アメリカヒイラギモチでは、人工授粉をしてもしなくても結実率に大きな変化が見られなかったという観察事実から、D. E. Carr (1991年)は、結実率を左右するのは花粉の量よりは、果実に回すことのできる資源量の方であろう、と推論しています。
以上のことから推察するに、クロガネモチを含むモチノキ属では、結実そのものに花粉が必ずしも必要ないようです。こんな身近な植物に、こういう現象があったとは、勉強になりました。今後も是非、観察してみてください。
なお、同様な質問が登録番号1608にあり異なる解釈が述べられていますので、こちらの回答もご参照下さい。
質問ありがとうございます。寡聞にしてこの現象については知りませんでしたので、この仲間の分類に詳しい京都大学博物館の永益英敏先生にもご教示を仰ぎつつ、調べてみました。
まず、答えの確実性が高い質問2の方からお答えします。「クロガネモチは虫媒花ですか、それとも風媒花ですか?」です。この仲間、すなわちモチノキ属では、ミツバチが花粉を媒介するケースが最も普通のようです。花からはかなりの蜜が出るという報告もあります。また奄美群島では、モチノキの花に広義のイエバエ群がやってくるという報告もあるそうです。いずれにせよ、虫媒に間違いないと思います。
さて次の質問が難題です。「雄木をほとんど見かけないにもかかわらず、雌木に赤い実が沢山つく理由」ですね。いろいろあたってはみたのですが、クロガネモチ自体に関する正式な報告を見つけられず、以下は近縁種で言われていることからの推測です。
そもそもクロガネモチと同じモチノキ属の結実については、あの進化論のダーウインも注目していたようです。Roberts A.N. とBoller C.A. (1948年)によると、セイヨウヒイラギの場合は、人工授粉すれば結実率が上がるケースも多いが、雌花に袋かけをしても少数の結実が見られること、種子を全く含まないのに紅く熟す実もあること、また人工授粉に頼らずともかなりの実を付ける系統・個体もあることが示されています。またそのことから、この種の場合、五十本の雌木につき一本程度雄木があれば、結実に十分ではないかと推定しています。
同様に『植木の実生と育て方』(山中寅文,1975年、誠文堂新光社刊)には「モチノキ属は雌雄異株(まれに雑居性のものもある)であるから採種用母樹に雄木がなければ完全な種子は得られないが,一般の観賞用には雌木だけで充分である」とあります。
またクロガネモチと同じ属の植物ヤバネヒイラギモチも、受粉しなくても結実するという報告があるようですし、アメリカヒイラギモチでは、人工授粉をしてもしなくても結実率に大きな変化が見られなかったという観察事実から、D. E. Carr (1991年)は、結実率を左右するのは花粉の量よりは、果実に回すことのできる資源量の方であろう、と推論しています。
以上のことから推察するに、クロガネモチを含むモチノキ属では、結実そのものに花粉が必ずしも必要ないようです。こんな身近な植物に、こういう現象があったとは、勉強になりました。今後も是非、観察してみてください。
なお、同様な質問が登録番号1608にあり異なる解釈が述べられていますので、こちらの回答もご参照下さい。
東京大学大学院理学系研究科
塚谷 裕一
回答日:2012-08-25
塚谷 裕一
回答日:2012-08-25