一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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オーキシンの移動

質問者:   教員   minorinoaki
登録番号1539   登録日:2008-02-06
オーキシンの移動には排出タンパク質と取り込みタンパク質の局所点在によるものであるということですが疑問がひとつあり、お答えいただきたいと思います。
高校の教科書には幼葉鞘の一部を切り、逆さまにした場合、オーキシンは極性移動をするため逆さまにした状態の上から下には移動しない、ということがのっています。ある論文には暗所で横に倒した植物の芽生えについて、倒した時下側になる細胞と上側になる細胞では排出タンパク質と取り込みタンパク質の分布が変化し下側になった細胞に取り込みタンパクが多く点在するようになり、オーキシンの分布に差ができる、ということが書かれています。
横にしたときは輸送たんぱく質の分布に変化が生じるのに、逆さまにしたときは輸送タンパクの分布に変化が生じないということなのでしょうか。教えてください。
minorinoaki 様

質問コーナーへようこそ。オーキシンの膜輸送タンパク質の細胞膜分布に関する論文を読んでおられるようですので、その中のdiscussionのところか introductionのところで関連する研究の論文が引用されてはいなかったでしょうか。この分野の研究は目下新しい知見が増えているところです。まず、簡単に一般的な概要を書いておきます。オーキシン輸送に関係する排出型タンパク質で良く知られているのはPINタンパク質です。アラビドプシスのPINには8種類が知られていますが、極性輸送に関係しているのはPIN1です。PIN1の細胞膜上の分布には局在性があり、細胞の縦の列の下方に方向性を持って分布しています。排出に関係しているタンパク質はほかに、全ての生物に分布しているABC (ATP-binding cassette) と呼ばれる大きなファミリーの仲間のものがあります。その中で、PGP (plasmamembrane-located (P)-glycoprotein [これはバクテリアや動物で多剤耐性に関与していることからMDR (multi-drug resistance) タンパク質ともいいます)]サブファミリーのPGP1,PGP19がオーキシンの排出に関わっている事があきらかになってきました。PGPはPINと異なって、細胞膜上で方向性をもって局在していません。最近の研究では、PINとPGPが相互に働き合ってオーキシン輸送の効率を高めるのではないかと考えられたりしています。他方、取り込み型タンパク質にはAUX1があります。オーキシンは弱酸性ですからpH6位のアポプラスト(細胞壁)に在るときはオーキシンン分子は大部分が電離していません。したがって、輸送タンパク質の助けを借りなくても膜を通って細胞内へ入り込めます。細胞内のpHは中性に近いので、大部分のオーキシン分子は電離しますから、そのまま膜を通ることはできません。そこで、輸送タンパク質の助けが必要です。取り込みタンパク質はAUX1の他に、根のコルメラ細胞で上から輸送されてきたオーキシンが左右に再配分されて、表皮細胞を根の基部に向って求基的輸送されるとき、PGP4が細胞内取り込みをおこなっていることが分かっています。オーキシンの輸送のメカニズムは単に一種類の取り込みタンパク質と排出タンパク質の作用だけで決まるほど単純ではありません。
ところで、屈性に関わるオーキシンの分布の差がオーキシン輸送タンパク質の局在の変化によるものだとすれば、なぜ上下を逆転させたとき、輸送タンパク質に分布の差が生じないかということですが、まず、ある程度研究(アラビドプシスで)の進んでいる根の重力屈性の場合について簡単に述べます。根冠のコルメラの第1層の細胞では多量のPIN3が膜上に均等に分布していますが、根を横にして重力刺激を与えると、短い時間内に細胞の下になった面にだけ分布が変わります。このために、細胞内のオーキシンは横になった細胞の下側に多く排出され、下になった側のオーキシン濃度が高くなり、重力屈性が起きると考えられます。このようなPIN3の分布の変化が茎や胚軸の負の重力屈性あるいは正の光屈性の際にも起きるのかというと、それは明らかではありません。ある実験では、芽生えに側光刺激をあたえると、維管束や皮層細胞の下の面に分布していたPIN1の局在度が胚軸の影側の皮層細胞で弱くなるそうです。そのため、オーキシンの求基的輸送能力が落ちて、影側の細胞にオーキシンの濃度が高まり、細胞伸長が起きると想像されます。この場合はPIN1の分布が変わったと言うのではなく、局在性が失われたということです。
あなたの言っている”芽生えで(多分胚軸のことかと思いますが)重力刺激をあたえると排出/取り込みタンパク質の分布が変わる”という論文のことは残念ながらしりません。根冠のコルメラ細胞の場合は分布が変わるといってよいでしょう。以上で大体想像がついたと思いますが、オーキシンの極性輸送を決めているのはPIN1の局在性にあると考えられますから、胚軸などの切片を倒置してもPIN1の分布が変わるわけでありません。だから、その場合オーキシンの輸送は起きません。オーキシン輸送に関わるタンパク質と実際の輸送メカニズムについてはまだ分からないことが多いと言ってよいでしょう。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2008-02-18
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