一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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二酸化炭素濃度と生長の関係

質問者:   その他   佐藤
登録番号0154   登録日:2004-10-25
地球温暖化に関してなんですが、大気中の二酸化炭素濃度が増加していますよね。

二酸化炭素は植物の光合成の材料になっていて、必要不可欠なものだと思うんですが、濃度が大きくなりすぎることで、逆に阻害剤のような働きを持ったりはしないんでしょうか。
つまり、植物体の生長に悪影響を及ぼすような…教えてください。
佐藤さま

地球温暖化にともない大気中の二酸化炭素濃度が上昇しています。これが植物にどのような影響を与えるのかを予測するために,多くの研究が行われています。たとえば,現在の大気の二酸化炭素濃度は370 ppm (=0.037%)ですが,これを倍,あるいはもっと高くした空気中で植物を栽培したとき植物の光合成や成長がどうなるかが調べられています。ポット植えにした植物を,二酸化炭素濃度を高めた人工気象器中で栽培するのが一般的です。もっと大掛かりには,森林や田畑の一部を二酸化炭素供給用のバルブをつけた柱で囲み,風向や風速を観測しながら適当なバルブ開いて,柱で囲まれた部分の空気の二酸化炭素濃度を高く保つ施設 (Free Air CO2 Enrichment,FACE実験) を利用します。後者は,施設も高くつくし,二酸化炭素をたれ流すわけですから,大変ランニングコストのかかる実験です。森林で行う場合など,二酸化炭素タンクローリーを使う場合もあります。
 このような二酸化炭素倍加実験の結果は,様々です。二酸化炭素を高濃度で与えた方が植物体が大きくなる場合もあれば,そうでない場合もあります。光合成によってできた産物は,非光合成器官の呼吸や新しい器官の成長に使われたり,実やその他の貯蔵器官に運ばれたりします。光合成産物を使ったり貯蔵したりする器官(シンク器官)が光合成器官にくらべて相対的に少ないと,行き場のない光合成産物が葉に蓄積して,これが光合成にフィードバック阻害の原因となります。このような条件下では,光合成活性は低下しますし,新たに作られる葉の光合成機能も抑えられます。一方,シンク器官の大きなものでは,二酸化炭素倍加によって成長が促進されます。メロンやスイカはいわば巨大なシンクです。これらの植物を温室で栽培する場合には,二酸化炭素濃度を高める「二酸化炭素施肥」を行うのが常識となっています。無機栄養を十分に与え,植物の成長が無機栄養によって律速されないようにすると,二酸化炭素濃度倍加により成長が促進されるようです。成長もシンクと考えると,二酸化炭素濃度倍加によって植物の光合成や成長が促進されるかどうかは,「シンク活性に依存する」とまとめることができるかもしれません。
大阪大学
 寺島 一郎
回答日:2008-07-10
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