一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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窒素同化におけるグルタミン酸の由来について

質問者:   教員   太田哲
登録番号1545   登録日:2008-02-20
高校で生物を担当しています。植物の窒素同化についてお尋ねします。
高校の資料では

①「アンモニウムイオンはグルタミン酸と結合してグルタミンになる」
②「グルタミンは呼吸などで作られたαケトグルタル酸と反応し、2個のグルタミン酸になる」
③「グルタミン酸のアミノ基が各種の有機酸に転移されて、いろいろなアミノ酸ができる」

というような記述になっているのですが、ここで最初に用いられるグルタミン酸はどこから得られるのでしょうか。資料の図を見るかぎり、グルタミン酸を得るにはグルタミンが必要だし、グルタミンを得るにはグルタミン酸が要るようで、堂々巡りのような感じがするのですが。
ご教示をよろしくお願いします。
太田 哲 様

ご質問にありますように植物の窒素同化では、(1)の反応でグルタミン酸とNH4+から1分子のグルタミンが合成され、(2)の反応で1分子のグルタミンと1分子のアルファーケトグルタール酸(正確にはアルファーオキソグルタール酸とよばれています)から2分子のグルタミン酸が合成され、次いで(3)の反応でグルタミン酸のアミノ基がアルファーケト酸に転移してグルタミン酸以外のアミノ酸が合成されます。お持ちの資料では、グルタミン酸以外のアミノ酸が合成されるのは(3)の反応段階だけになっているようですが、実際には、(3)のアルファーケト酸へのグルタミン酸からのアミノ基転移だけでなく、グルタミンからも、また、グルタミン酸から(アミノ基転移反応以外の)反応でも、植物の代謝に必要な酵素などのタンパク質合成のための20種のアミノ酸が合成されます。

最初の反応(1)でNH4+がグルタミン酸と結合してグルタミンが合成される分子数をAとしますと、グルタミン、グルタミン酸から直接、また、グルタミン酸からアミノ基転移反応で他のアミノ酸が合成される分子数を合計したBは、0.5A以下でなければ、この窒素同化反応は進行できません。すなわち、(1)の反応で合成されるグルタミンの分子数と等しい分子数のアミノ酸しか合成できないこと、そして(2)の反応でグルタミン1分子から2分子のグルタミン酸が合成できることを考えていただければ、堂々めぐりにはならないと思います。 

植物は上のような、動物が持っていない窒素同化の機構をもち、反応(1)のグルタミン合成酵素によってNH4+からグルタミン、さらに、(2)、(3)の反応で合成されるグルタミン、グルタミン酸から、20種以上のアミノ酸を合成することができます。根から吸収されたNH4+はこの窒素同化反応で速やかにグルタミン、グルタミン酸に同化されます。NH4+は動物には高い毒性を示しますが、植物にとっても“毒性”があるため、根から吸収されたNH4+は速やかにグルタミン、グルタミン酸の形に変換して細胞内に(窒素を)貯えています。実際に、植物の細胞では遊離アミノ酸としてグルタミン、グルタミン酸の含量が高く、とくに窒素肥料が充分に与えられると、NH4+ではなく、グルタミン、グルタミン酸の含量が高くなり、この形で窒素を細胞内に蓄えています。このように細胞内にはグルタミン酸が常に含まれ、NH4+を直ちにグルタミンに同化できるようになっています。このよう点から見ても、細胞内ではB < 0.5A であり、常に(1)の反応が速やかに進行できるようになっています。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2008-02-29
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