一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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放射柔細胞の生死と役割について

質問者:   自営業   星の王子
登録番号1549   登録日:2008-02-24
「樹木の心材組織は全ての細胞が死んでいて樹木を力学的に支える役目のみとなっている」・・と本で読みましたが、道管、仮道管が存在する辺材の細胞も分裂しているのは師部細胞周辺だけとのことでした。そこで質問ですが、接線に直角に走っている放射柔細胞は師部から辺材部までが活き細胞で、なぜ心材化された組織内では死細胞となってしまうのですか?教えてください。また、放射柔細胞はどんな役割を持っているのか、死細胞で構成されている辺材組織の中でなぜ放射柔細胞だけ活き細胞なのかも併せて教えてください。
星の王子さま

大変長いことお待たせいたしました。頂いたご質問の回答を京都大学の馬場啓一先生にお願いしたのですが、最初の依頼がメール・トラブルのため馬場先生に届いておらず、再度のお願いでようやくお届けすることが出来、本日、以下のような回答が頂けました。お役に立つものと思いますので、しっかり勉強して下さい。

馬場先生のご回答

生き物は死ぬと意味が無くなると考えるのが普通ですが、木部の仮道管や道管は、原形質という生きた部分を失い細胞壁だけの筒となることで根から葉への水分・栄養分の通り道になります。木部の縦に長い細胞のほとんどは「原形質が無い」という意味では死細胞ですが、「水分通道をしている」という意味では生理的に機能しており、樹木全体が生きるために必要不可欠な組織です。
ある程度以上の大きさに育った樹木の中には水分通道をしていない心材がありますが、心材となっている部分もその木が若くて小さかった頃には辺材として水分を通道する機能を担っていました。樹木が大きくなるにつれ、若かった頃の木部は幹の中に埋まり込み、葉や根とのつながりも無くなって活き活きとした水分や養分の流れもなくなります。そうなる時に柔細胞は積極的に自身の原形質を構成していた物質や貯蔵していた栄養分を分解して作り替え、他の生物が利用できない物質や、殺菌性や防犠牲のある物質にしてしまいます。原形質を壊すのですから、それは細胞にとって死を意味します。これが心材化です。つまり、菌類やシロアリに喰われない腐らないようにするために死ぬのだ、と言っても良いかも知れません。
放射柔細胞の役割についてですが、まだ全てがわかっているわけではありません。細胞の配列から放射方向の物質のやり取りをしているのだろうと考えられています。また、冬になるとデンプン粒や油滴が観察されることから、栄養分の貯蔵機能を持つことは古くから知られていました。最近では、木部繊維の細胞壁が木化するための原料や酵素を供給する働きや、道管の中の水柱が切れて泡が入った時に水を供給して泡を埋める働きなどを持つと思われるような研究成果が得られています。
なぜ辺材では放射柔細胞だけ生きているのか、というのが最後の質問でしたが、実は放射柔細胞の他に縦に長い生きた細胞(軸方向柔細胞)も持つ樹種が多いのです。針葉樹はともかく広葉樹ではむしろ軸方向柔細胞の無い(放射柔細胞しかない)樹種はむしろまれです。とはいえ、軸方向柔細胞をもたない樹種はありますが放射柔細胞をもたない樹種というのは存在しないので、樹木が生きていく上では非常に重要な組織だということがわかります。

馬場 啓一(京都大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2008-04-08
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