一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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バイオトイレ(コンポストトイレ)について

質問者:   高校生   バイオ研究会
登録番号1557   登録日:2008-03-05
熊本県の農業高校で環境保全についての研究活動を行う「バイオ研究会」の部長をしています。以前にも質問コーナーでお世話になりました。
最近、「バイオトイレ」もしくは「コンポストトイレ」という、くみ取りや水洗が不要な環境に優しいトイレができて、富士山に設置されたと聞きました。すごいことだと思います。
少し調べてみたところ、理論は生ゴミ用のコンポストと同じようなものらしいのですが、「バイオトイレはオガクズを培養土にして、排泄物中の腸内細菌がすごい力で有機物の分解を行うので嫌な臭いの無臭化や堆肥化を促進してくれる。溜まっていっても量が増えないから年に2〜3回の交換でよい。環境にもよい」ということのようです。
本当に腸内細菌にはそんな能力があるのでしょうか?また、微生物の力についてはわからないことが多く、腸内細菌以外にもっと分解能力がすごい天然の微生物がいましたら教えてください。
バイオ研究会さん

質問コーナーを利用していただきありがとう。植物生理学会では腸内微生物を研究対象にしておられる方はいないと思いますので、専門的な内容を知りたいならば、微生物学会などに照会するとよいでしょう。しかし、バイオトイレはバイオテクノロジーの一つであり、いわゆるバイオレメディエーション(生物を利用した環境修復技術;主として微生物を利用するが、自然条件で植物を利用することもある。)の応用と考えてもよいので、簡単にお答えします。
人間の腸内には100兆個ものバクテリアが生息しています。腸のバクテリアというと大腸菌を思い浮かべますが、他にも多種類のバクテリアがいて、その種類も100を超えるといわれています。大人の腸内に生息する細菌の総重量は1.5kg 程度です。また腸といっても、比較的酸素が多い環境の小腸上部では好気性(酸素呼吸をする)菌や酸素呼吸も発酵も行なう菌が生息しており、酸素がない大腸では発酵をおこなうことができる菌がほとんどです。前者には、乳酸菌、連鎖球菌、酵母菌などの仲間が、後者にはバクテロイデス、クロストリディウム、ビフィズス菌などの仲間がおりますが、腸内のバクテリアの種類や分布には個人差や年齢差があるようです。これらの腸内バクテリアの働きにより摂取された食物は消化(分解)されますが、完全に分解されることなく糞便として排出されます。糞便の半分は腸内細菌かその死骸です。糞便に混じっている菌の組成は大体大腸の菌組成と同じです。
そこでバイオトイレのことですが、原理は糞便の中に存在する様々なバクテリアを好気条件下で働かせて有機物を分解しようということです。そのためにオガクズを人工土壌として用いるのです。オガクズのメリットは多孔質で空隙も多く保水性が高いので、好気性バクテリアの活動に格好の場です。トイレの装置は撹拌し、加熱してバクテリアの働きを促進するとともに、大腸菌や不必要な雑菌を殺します。
最近の改良されたバイオトイレはオガクズ以外の人工土壌を使ったり、腸内にはないバクテリアを加えたりして、より効果的に処理出来るようになっています。
微生物には実にさまざまな能力を持ったものがあり、これらを利用して、前述したバイオレメディエーションがおこなわれています。ダイオキシン類、PCB、クロロエチレン類などの有害有機物を分解して環境の浄化に役立つ微生物もいます。分解能力のすごい天然の微生物は沢山いますので、これらについては、次にあげる参考書を読んでみて下さい。
日本農芸化学会編[人に役立つ微生物のはなし」学会出版センター、2002
日本美声部何時生態学会教育研究部会編[微生物ってなに?」日科技連2006
中村和憲「環境と微生物ー環境浄化と微生物生存のメカニズムー」産業図書1998
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2008-04-08