一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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液胞の役割

質問者:   その他   三宅 進
登録番号0156   登録日:2004-11-01
液胞の働きは、高等学校教科書では老廃物のごみ捨て場で色素も含まれている、という書かれ方をしています。
が、そんなものなのでしょうか。
液胞って、本当は何をしているところなのですか?
三宅 進さま

 液胞(Vacuole)は植物,及びカビに普遍的なオルガネラで、細胞体積の大半を占めるにも関わらず、従来は不活性で受動的なオルガネラであると考えられていました。しかし、近年植物細胞の機能解析が進むに従い,植物の様々な機能にこのオルガネラが深く関わっていることが明らかとなり,液胞の理解なくしては植物細胞は理解できないとさえ考えられるようになってきています。その役割は大きく、4つに分けて考えることができると思います。
 まず第一に、空間充填コンパートメントとしての機能です。植物体の成長は液胞の肥大化の過程であり、液胞形成は植物体の形態形成を考える上で最も重要です。より少ないコストで葉をより大きく展開して多くの光を得たり、また根を伸長して、地中の養分を獲得するために、生命活動の場である細胞質を希釈することなくこの要求を達成する最も優れた戦略が、細胞内に安価な水溶液からなるもう1つの空間を形成することです。多くの植物細胞は細胞の成長に伴って不可逆的に液胞が肥大化し、最終的には全体積の90%以上となります。しかし、細胞内における液胞の大きさがいかなる機構で決定されているかは未解決の課題です。
 第二の液胞の機能は貯蔵機能です。植物細胞はその細胞の機能に応じて様々な分子を液胞内に高濃度に蓄積することが知られています。種子形成の際に、液胞内に次世代の栄養のためにタンパク質や栄養塩類を貯蔵したり、昆虫を誘引するために鮮やかな色素を花弁細胞の液胞内に貯めることができるのは良く知られた事実です。
 第三の機能は、解毒・調節機能です。液胞はストレス環境下に最も重要な役割を演じ、細胞に適応力と大きな緩衝力を与えていると考えられています。植物細胞は血液のような循環系を持たず、大きく変化する外部環境に適応して細胞内の恒常性を維持することが必要となりますが、細胞質のイオン環境、pH調節に液胞の緩衝能が重要な寄与をしていることが示されています。
 最後に、液胞は種々の加水分解酵素が局在し、動物細胞のリソソームと相同な分解コンパートメントとして機能していることも良く知られた事実です。動物と同様に老化やプログラム細胞死の過程(例えば、植物では落葉や導管形成など)においても液胞の分解機能が重要な役割を果たしていると思われます。
 
 さらに何より大事なことは、液胞が,人類の直面する最重要課題である食料問題,環境問題などの解決のための重要な基盤をなす点でしょう.なぜなら我々の生活は液胞内に蓄積した様々な分子(種子の貯蔵タンパク質,果実の糖や有機酸,薬剤や色素等に利用されている植物の二次代謝産物)に大きく依存しているからです.液胞は、葉緑体と同様、植物にとって以上に、人間にとっても大事な細胞内器官と言うことができます。
神戸大学
 三村 徹郎
回答日:2008-07-10
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