一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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樹熟、追熟の意味について

質問者:   一般   宮原賢士
登録番号1572   登録日:2008-03-25
果樹の果実等でよく耳にします、追熟、樹熟ですが、熟させる原理がわからないので教えてください。
樹熟は字の如く、樹にぶらさげたままの状態で熟さす、という捕らえ方でよ
ろしいのでしょうか?
追熟は樹から収穫したあとに、ほっぽりなげて熟さす物と、決めれた温度内で熟させると聞きます。腐らないのでしょうか?
また追熟させての甘みが増す原理等を教えてください。
また果樹部類で追熟させる産物他、果樹の他の産物ではどのような物がありますか?

私の知る範囲、洋ナシレクチェ、デコポン、キウイをよく聞きます。
トマトも追熟させると聞いた事もありますが。
以上宜しくお願い致します。
宮原 賢二 様

果実の追熟(または後熟)は一般に、果実を収穫後、食用に適した状態にもってくるために行う処理をよんでいます。例えば、日本で一般的なナシであるニホンナシの果実は 木で適当な段階まで成熟させれば、収穫後、とくに何の処理をしなくとも食用に適した状態になりますが、セイヨウナシは追熟処理をしなければ固くて食べるのに適した状態にはなりません。日本でバナナは追熟処理されている果物ですが、日本に輸入されるバナナは、生産地の熱帯地方で緑色の、硬い(甘くない)状態で収穫し、これをバナナからエチレンが発生しない低温、CO2気相条件で日本にまで輸送し、これにエチレンによる追熟処理を行って、黄色の、軟らかい(甘い)食用に適した状態にした後、販売されています。植物体で果実が成熟するとき、多くの果実(メロン、モモ、キイウイ、リンゴ、ネクタリン、アボカド、トマトなど)でエチレンが発生し、これがホルモンとしての信号となり、果実の呼吸が盛んになり(クリマクリテリック呼吸上昇とよばれています)、着色、軟らかくなる、糖分の増加など、果実がいわゆる“熟した”状態になります。

追熟のためには、低い濃度(〜1ppm前後)のエチレン(ガス)で充分であり、この僅かのエチレンによって、果実の成熟が促進されます。植物体で果実自身が発生するエチレンも、この程度の僅かな量で、果実の成熟を誘導しています。エチレンは果実の成熟を促進する以外に、植物の多くの器官の“老化”を促進する作用をもっています。これには落葉、花の寿命の短縮、茎の伸長阻害などがあり、エチレンは老化ホルモンともよばれています。ホルモンとして働くエチレンはメチオニンから合成され、その経路、関与する酵素も明らかにされています。さらに、エチレンは常に合成されているのではなく、ある特定の生理条件になったときにのみ合成されます。果実では果実が充分に大きくなり、種子が完熟した後で、エチレンが合成されます。こうして合成されたエチレンによって、恐らくは、鳥などによって種子をできるだけ広範囲に撒いてもらうため、鳥にとって魅力的になるよう軟らかく、糖含量が高くなるようになる変化―果実の成熟―が開始されると考えられます。

エチレンによる追熟であっても、また、果実から発生するエチレンによる成熟の場合でも、果実の成熟は一般に果実の細胞壁、その外側のペクチンが分解して細胞の構造がルーズになって軟らかくなり、また、細胞内のデンプンが加水分解されて糖分が高くなると考えてよいでしょう。ご質問にある樹熟は一般的にはあまり用いられていないようですが、ニホンナシのような果実には当てはまるかも知れません。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2008-04-21
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