一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物に期待されていること

質問者:   高校生   きこ
登録番号1576   登録日:2008-04-02
温暖化対策のため二酸化炭素をより多く吸収する植物の開発など、新しい機能を備えた植物を期待する声が多いようです。二酸化炭素の吸収の他に、どのような植物が望まれているのですか?
また研究者はどのような植物の開発に取組んでいるのですか?
21世紀、人類や地球を救うにはどんな機能が効果的なのか紹介してください。
きこ さん

21世紀に生きる私たちが、人類や地球を救うために、どんな機能を備えた植物を開発する必要があるかと問われている訳ですね。

ご存知のように、私たちと植物との関係は多岐にわっております。
その中でも、ヒトが生命活動を営むために不可欠なエネルギーと有機物素材を供給(獲得)すると言う意味での“食糧”としての関係は、古典的ですが、本質的に重要なことです。21世紀の地球上に住む私たちに課せられる最大の課題は、おそらく、“人口爆発”による地球規模での食糧不足への対応ではないかと思います。この課題の解決のためには、植物の能力を格段に高めて(あるいは、どこかに潜む既存の能力を活用して)、環境への適応能の向上による生育面積の拡大(例えば、砂漠の緑化)や、一定面積当たりの産物(植物体や穀物など)の増収が図られる必要があります。

また、植物を食糧としてではなく“燃料”として利用することも重要な課題となっています。素朴には薪や炭としての活用ですが、新しくは“カーボンニュートラル(燃料の消費の際に大気中に放出されるのと同量の二酸化炭素が、燃料の生産としての植物体の生育の際に光合成により大気中から吸収されるという意味)な代替燃料(メタノールなど)”としての利用です。このことに関連して、現実に起きていることは、食糧と燃料との間の競合による食糧価格の高騰などの社会問題です。すなわち、燃料問題は食糧問題と一体化した問題です。そんな訳で、これらの問題を根本的に解決するための植物科学研究者の取り組みは、植物の生産能力の向上・生育地域の拡大を可能にすることに集約されるのではないでしょうか。

別の面として、植物が“医薬や香料など、優れた有用物質を生産する工場”としての機能を備えていることに注目する必要があります。この有用性の認識は未開拓と言ってよいかも知れません。植物の多様性を考えると、そこには無限の可能性が秘められているように思えます。これらの優れた合成能力を更に開発することは植物科学研究の大きなターゲットです。

上に述べたような多様な問題に対する植物科学研究者の具体的な取り組みは、高(低)温や乾燥に強い植物、栄養素(無機栄養)の吸収能率が向上した植物(例えば、大気中の窒素を固定して植物に提供する微生物との共生系を付与する)、病害虫に強い植物、風水害に強い植物、成長速度の早い植物、稔り(種子)の多い植物、特定の成分を高濃度に蓄積する植物など、多岐多方面にわたる植物の機能開発に向けられています。ただし、これらの試みが成功するためには、その基礎として、植物の生理作用が全体として解明され、機能発現の仕組みが理解されることが不可欠です。多くの植物科学研究者はそのような基礎研究にも従事しており、日本植物生理学会はそのような人たちの集まりです。

ところで、現在、多くの生物の核や細胞内小器官(葉緑体やミトコンドリアなど)で遺伝子情報を担っている物質としてのDNAの構造(塩基配列)が解明され、遺伝子情報がどのような仕組みで生物の形質(性質)発現につながっているかについての理解が大きく進展しました。また、系統的にほとんど無関係な外来の遺伝子を導入したり、遺伝子の特定部分の情報を人工的に改変したりする技術も高度に発達してきました。このような状況は、上に述べた新しい機能を備えた植物の開発に明るい展望を与えるものであります。しかし、最終的なゴールの前にはまだ解決しなければならない難問も多く、情熱のある若者の参画が期待されています。
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2008-04-08
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