質問者:
その他
佐藤公
登録番号0160
登録日:2004-11-17
2005年5月の三橋先生のご回答の中で「昼間、光合成を行うことによって葉の細胞にある葉緑体の中で合成されたでんぷんは、夜の間に分解されて糖に・・・」とあり、私もそのように理解していましたが、以下のような質問を生徒から受けました。みんなのひろば
同化デンプンについて
1.同化デンプンが合成されたら、なぜすぐスクロースにならないのか(なぜ、夜の間なのか)。
2.例えば1週間程度、ずっと明期にしていた場合、その葉で作られる同化デンプンはどうなるのか。
どうぞ、よろしくお願い致します。
佐藤公さま
「ごく当たり前のこと」はやっぱりうまく答えることは難しいようです。満足なお答えになるかどうか判りませんが、とりあえずお答えします。
まず、1の質問に答えましょう。
デンプンとスクロースはともに光合成反応の最終産物にあたりますが、両者は植物にとってかなり異なった役割をもっています。基本的に植物は、同一の場所で両者を同 時に合成しないようなしくみをもっています。これについて説明する前に、まずデンプンとスクロースについて簡単に説明しましょう。両者の大きな違いは、水に溶けるかどうかという点です。デンプンはグルコースの重合体(ポリマー)で、水に溶けにくい性質を持っています。これが植物にとってはとても大切なことです。光合成反応 によって糖ができますが、水溶性の糖は浸透圧を高める働きがあります。ジャガイモ葉では、昼間の終わり頃にはクロロフィル1mgあたり10-4モル相当のグルコースにあたるデンプンが合成されます。もし、このデンプンがグルコースのままであるとすると、その濃度は0.25 Mに相当し、これは細胞液の浸透圧を50%以上も上昇させることになります。浸透圧の上昇は、植物にとって当然ストレスとなります。これを回避するしくみとして、水に溶けない(浸透圧を高めない)デンプンが価値をもちます。このような理由から、植物は光合成産物を貯蔵する物質としてデンプンを選んだと考えられます。
元に戻りましょう。デンプン合成とスクロース合成に関係する酵素群には、共通の制御物質が働き、しかも拮抗的に作用することが明らかになっています。つまり、デンプン合成が活発になると、スクロース合成は抑制されます。一般的には、トリオースリン酸と無機リン酸などがこのような物質と考えられています。このような物質の濃度が、昼間と夜間では変動すること(光や概日リズムなどによると思われます)、あるいはデンプンやスクロースの合成量によっても変動することにより、両者の合成は 同時に起こらないようになっています。また、デンプン合成は葉緑体で、スクロース合成は細胞質で起こる、というように合成場所を区別することでもうまくバランスを保っているわけです。
従って、昼間葉緑体でデンプン合成されている際には、通常細胞質でのスクロース合成は妨げられていることになります。その理由は、先程示したように急激な浸透圧上 昇を防ぐ等の意味合いがあると思います。また、夜間合成されるスクロースの多くは他の器官に転流されますので、緑葉自体にはそれほど多くが留まらないことになります。
次に、2の質問に対する回答です。先程の明快な回答からトーンダウンすることになりますが、ずっと明期にしておいた場合でも同化デンプンはある程度スクロース等の 糖に分解(変換)されます。ある種の植物、例えばオオムギなどでは昼間でも葉の中 に多量のスクロースを貯蔵しています。おそらく、植物はデンプンとスクロースの存在量のバランス(存在比)を保っていると考えられます。明期と暗期がリズム良く繰り返されれば、その存在比はメリハリ良く変動しますが、明期が連続する場合には、ある存在比を絶えず保つよう働くと想像されます。植物にとっては、当然メリハリのある変動の方がよいわけです。実際、私たちの実験室でも、連続光で植物を生育させた場合、不健全な植物となり、ストレスに対する感受性が高くなります。やはり、自然の状態に近い環境で植物を育てるのが一番ということになりますね。
「ごく当たり前のこと」はやっぱりうまく答えることは難しいようです。満足なお答えになるかどうか判りませんが、とりあえずお答えします。
まず、1の質問に答えましょう。
デンプンとスクロースはともに光合成反応の最終産物にあたりますが、両者は植物にとってかなり異なった役割をもっています。基本的に植物は、同一の場所で両者を同 時に合成しないようなしくみをもっています。これについて説明する前に、まずデンプンとスクロースについて簡単に説明しましょう。両者の大きな違いは、水に溶けるかどうかという点です。デンプンはグルコースの重合体(ポリマー)で、水に溶けにくい性質を持っています。これが植物にとってはとても大切なことです。光合成反応 によって糖ができますが、水溶性の糖は浸透圧を高める働きがあります。ジャガイモ葉では、昼間の終わり頃にはクロロフィル1mgあたり10-4モル相当のグルコースにあたるデンプンが合成されます。もし、このデンプンがグルコースのままであるとすると、その濃度は0.25 Mに相当し、これは細胞液の浸透圧を50%以上も上昇させることになります。浸透圧の上昇は、植物にとって当然ストレスとなります。これを回避するしくみとして、水に溶けない(浸透圧を高めない)デンプンが価値をもちます。このような理由から、植物は光合成産物を貯蔵する物質としてデンプンを選んだと考えられます。
元に戻りましょう。デンプン合成とスクロース合成に関係する酵素群には、共通の制御物質が働き、しかも拮抗的に作用することが明らかになっています。つまり、デンプン合成が活発になると、スクロース合成は抑制されます。一般的には、トリオースリン酸と無機リン酸などがこのような物質と考えられています。このような物質の濃度が、昼間と夜間では変動すること(光や概日リズムなどによると思われます)、あるいはデンプンやスクロースの合成量によっても変動することにより、両者の合成は 同時に起こらないようになっています。また、デンプン合成は葉緑体で、スクロース合成は細胞質で起こる、というように合成場所を区別することでもうまくバランスを保っているわけです。
従って、昼間葉緑体でデンプン合成されている際には、通常細胞質でのスクロース合成は妨げられていることになります。その理由は、先程示したように急激な浸透圧上 昇を防ぐ等の意味合いがあると思います。また、夜間合成されるスクロースの多くは他の器官に転流されますので、緑葉自体にはそれほど多くが留まらないことになります。
次に、2の質問に対する回答です。先程の明快な回答からトーンダウンすることになりますが、ずっと明期にしておいた場合でも同化デンプンはある程度スクロース等の 糖に分解(変換)されます。ある種の植物、例えばオオムギなどでは昼間でも葉の中 に多量のスクロースを貯蔵しています。おそらく、植物はデンプンとスクロースの存在量のバランス(存在比)を保っていると考えられます。明期と暗期がリズム良く繰り返されれば、その存在比はメリハリ良く変動しますが、明期が連続する場合には、ある存在比を絶えず保つよう働くと想像されます。植物にとっては、当然メリハリのある変動の方がよいわけです。実際、私たちの実験室でも、連続光で植物を生育させた場合、不健全な植物となり、ストレスに対する感受性が高くなります。やはり、自然の状態に近い環境で植物を育てるのが一番ということになりますね。
北海道大学
山口 淳二
回答日:2008-07-10
山口 淳二
回答日:2008-07-10