一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ユキノシタのアントシアニン有無の違いを生じさせる要因について

質問者:   教員   ミヤチ
登録番号1601   登録日:2008-05-05
初めまして、非常に学術的な内容が多くとても参考になります。トピックスにある名古屋大学の吉田先生の(7)市民講座の講演内容で、アントシアニンの発色やphの影響については分かりました。また、質問コーナーで関連する過去の質問についてはある程度、検索して読ませていただきました。

そこで質問ですが、ユキノシタが、アントシアニンを含む赤緑の葉になるか、アントシアニンを含まない緑の葉になるのかは、どのような要因が影響しているのでしょうか。大雑把には、光があまり当たらないと赤緑の葉になり、光がよく当たると緑の葉になるようですが、具体的にどれぐらいの明るさの光で、何時間というのが分かっているのでしょうか。

また、この後の勉強のために、参考となる書籍等を教えてくださると大変助かります。アントシアニンをはじめとする植物の色素について広く学べるものと、ユキノシタの成長や開花、色素合成について代謝経路や反応に影響する要因等についてある程度専門的に述べられたものが分かると大変ありがたいです。
ミヤチ さん:

お待たせしました。「ユキノシタのアントシアニン有無の違いを生じさせる要因について」は植物色素を研究されている名古屋大学の吉田久美先生に伺い、次のような回答をいただきました。種の多様性は形ばかりでなく、働きにも見られますが、個々の植物種の特異的な働きがすべて解明されているものではありません。アントシアニンの生合成の制御の仕組みも環境、種、部位、時期などによって違いますのでいろいろな型の着色がおこると考えられています。

ミヤチ様
質問コーナーをご覧くださり、ありがとうございます。
お尋ねの葉のアントシアニンの合成についてですが、アントシアニンの生合成へのスイッチは、いろいろなシグナルで入ります。新芽のクロロフィルができる前の条件で葉が赤いのは、紫外線の防御ではと言われており、クロロフィルが合成されるまでのつなぎ役のスクリーン色素と考えられています。赤シソやアカメなどで観察されます。これらは、成長につれて、クロロフィルがたまってくると、アントシアニンは分解されるか、あるいは全体として量の割合が減るので赤く見えなくなります。もうひとつは、比較的暗いところに生育する葉の裏側にアントシアニンがたまるものがあります。観葉植物に多いです。これは、光合成のための光を、裏側の赤い色素で反射して、再度葉の中に入れる仕組みではと言われております。(たしか、アッテンボローの科学番組で紹介されていました) さらに、アントシアニンの生合成に紫外線による刺激が必要な植物があります。たとえば、リンゴやナスの皮では、光を遮るとそこだけ、アントシアニンが作られず、白く抜けます。たとえば、寿の字の光を通さない紙をリンゴに張ると白く字が浮き出ます。また、赤シソと青シソは、遺伝子はほとんど違いませんが、アントシアニンの生合成を調節する転写因子の発現の違いにより制御されています。
このように、アントシアニンの合成については、いくつもの機構がありますので、ユキノシタがどれで制御されているかについては、具体的に私はわかりません。ただし、光の強さや時間については、モデル植物を用いた研究は多数なされております。たいていの葉のアントシアニンはシアニジン3-グルコシドという単純な色素で、多分ユキノシタもこれだと思われます。生合成は、フェニルアラニンからスタートします。シアニジン3-グルコシドまでの経路はほぼ構造遺伝子、酵素ともに明らかにされています。詳しくは次の文献を参考になさってください。

増訂植物色素、林孝三編、養賢堂、1988年
植物色素研究法、植物色素研究会編、大阪公立大学共同出版会、2004年

吉田 久美(名古屋大学大学院情報科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-05-21