一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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サザンカのいもち病について

質問者:   その他   ちった
登録番号1605   登録日:2008-05-08
4月下旬頃から庭のサザンカにいもち病が見られるようになりました。他のお宅にも観察できましたが私の家は異常に多いと感じました。いもち病について調べてみたところ原因はカビによるものだとわかりました。これについて以下のような疑問を持ちました。

・カビは植物のどこから侵入するのか?(私は気孔ではないかと思っています。)
・植物内に入ったカビはどのように葉を肥大させるのか?(植物ホルモンを作らせるのではないかと思っています。)
・もし植物ホルモンを作らせるならカビがDNAを操作している可能性はあるのか?
・胞子の飛ぶ距離はどれくらいか?
・カビに侵された植物は何らかの対処をしているのか?

よろしくお願いいたします。
ちった さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

“サザンカの「いもち病」について”とのご質問ですが「いもち病」というのはイネに特有の病気で、ツバキ科のサザンカにはない病気です。おそらく「もち病」の間違いだと思いますのでもち病についてお答えします。「もち病」はツバキ科とツツジ科に見られる病気で感染部(主に新葉)がもちを焼いたときのように膨らむことから名付けられ、担子菌類に属する糸状菌による病気です。病原性糸状菌の感染様式にはいろいろな型がありますが、もち病菌は宿主の細胞を殺さないで栄養を吸い取る方式です。葉の表面で胞子が発芽し付着器を介して細胞内に潜り込み、ハウストリアという樹状の構造体を形成します。ハウストリアは菌細胞と宿主細胞の細胞膜とが大きな接触面積をもつようになっていて、宿主細胞から栄養を効率よく吸収したり、菌の産物を宿主に放出したりすることができます。感染した宿主組織が膨れる理由は単純ではありませんが、もち病菌がインドール酢酸などの植物ホルモンを合成・分泌するため、宿主細胞の細胞分裂が促進されることが原因の一つだと考えられています。

「もし植物ホルモンを作らせるならカビがDNAを操作している可能性はあるのか?」とのご質問の意味が分かりかねますが、カビが合成した植物ホルモンは植物細胞の遺伝子発現を制御して効果を現すもので、アグロバクテリアのように自身の植物ホルモン合成遺伝子を含むDNAを複製して植物側に送り込むのとは違うものです。

サザンカでは研究がありませんが、静岡県茶業試験場の研究ではチャの品種によって感染率が大きく違うとの結果がでていますので、抵抗性品種では何らかの抵抗反応を示す仕組みがあると考えることができます。一般的には、菌糸が侵入するとき宿主側がカロースやリグニンを形成して菌侵入を物理的に妨げる仕組みがあります。その出来方が品種によって違えば、抵抗性に違いがでることになります。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-05-14