一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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トチノミのアク抜きについて

質問者:   公務員   山田晃弘
登録番号1612   登録日:2008-05-13
これまで、考古学の世界では、トチノミには、タンニン以外に非水溶性のサポニンやアロインが含まれるために、灰水を使用しないとアク抜きができないとされてきました。私も博物館の体験学習の中でそのように説明し、実際に灰水を使ってアク抜きをしたトチノミを試食してもらっていました。しかし、各地でアク抜きを水さらしだけで行う例が報告されていますし、灰水の利用は効率を高めるためであって、基本的には不要だという考古学者もいます。サポニン・アロインの性質について自分なりに調べてみましたが、これらが時間さえ掛ければ水に溶けうるものなのか、灰水のアルカリを利用しなければ抜き去ることができないものなのか、どうしてもすっきりした理解を得られないでいます。この点についてご教授いただきたく存じます。よろしくお願いいたします。
山田晃弘 さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
考古学とトチの実のアク抜きとの関係が私にはよく判りませんが、植物の成分化学的な観点からご質問にお答えします。植物組織に含まれる成分を抽出するときは、ふつう抽出された化学成分を対象としますので植物組織は残さとして廃棄します。このときは、植物組織を細かく砕いて成分が抽出されやすいようにしてしまいます。しかし、植物組織の不要な成分を除去して、残りの組織を利用するときには植物組織の物理的状態(大きさ、堅さ、葉のように薄いものか、果実などように立体的かなど)が成分の抽出(除去)されやすさに大きく影響します。問題となっているトチの果実は堅果としては大きな方で、水分が少なく細胞が堅く密に詰まっています。ご指摘のようにタンニンをはじめとする「渋み」「苦み」成分が多く含まれていますので、それらのアク味成分を除かなければ食用になりませんが、アク味の主体であるタンニン、サポニンなどは水溶性ですので、水に浸けておけば溶出してくるものです。しかし、生の果実の細胞は生きていますので、そのまま水に浸けてもタンニン類は溶出しません。乾燥するか、加熱するかしてまず細胞を殺して成分を出やすくしなければなりません。その後であれば、水に浸けておけば次第にアク味成分は除かれますが、果実の内部組織内の成分が外に出るまでには長い時間がかかります。そのため、この段階でも物質の移動を早めるために加熱したり頻繁に水を取り替えたりすることが必要です。さらに、アク味成分の多くは酸性である上に、組織内のタンパク質などと結合しているものもあります。これらのアク成分を除くにはアルカリ性の灰汁でさらに可溶化しやすくすることが必要になります。理論上は、トチの果実細胞を殺した後ならば水を取り替えながら長期間浸けておけば食用になる程度までのアク抜きが可能なように思われます。しかし、実際にはタンニンなどは酸化しやすいため長期の間にで重合したり、他の物質に結合したりしますのでアルカリ処理が有効ということになります。トチの果実は古くから、多くの地域で食用にしています。果実細胞の殺し方、洗い方、灰汁の使用などを組み合わせるとアク抜きの方法にも多様なものがありますので、地域(あるいは個人)によって蓄積された知恵をまとめた固有の技法が伝承されているようです。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-05-21
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