質問者:
一般
hiroyuki
登録番号1619
登録日:2008-05-19
園芸や農業の分野で使われている固定種というものと、みんなのひろば
固定種、純系について
生物学などで使われる純系と言うものは同じものと
考えて良いのでしょうか?
また、野生の植物で何十年、何百年にもわたって群落を形成
してるような草本の植物があるとするならその植物は固定種または
純系とよべるのでしょうか?
よろしくおねがいいたします。
hiroyuki さま
手近の生物学辞書で固定種は見当たりませんでしたが、農作物、園芸の栽培に用いられている栽培種(または、品種)と同じ意味と思います。栽培種は、これに適した環境条件(気象条件、土壌の無機養分(肥料)、栽培管理)で栽培すれば、同じ品質と収量が期待できる、遺伝子組成をもつ個体群とされています。イネであれば、ある栽培種の種子から生育した全ての個体について、収量、米粒のデンプンの性質、味などに関与する遺伝子はほぼ同じになっていますが、その栽培種の品質,収量などに直接、関与していない多くの遺伝子について、全ての個体について全く同じであるとはいえません。ある植物の全ての遺伝子組成を同じようにするためには自家受粉を何回も繰り返す必要があり、年に1回しか受粉―受精―種子形成できない植物では長い年月が必要です。
栽培種に比べ純系(種)は、自家受粉をできる限り繰り返し、遺伝子の組成をできる限り同一に近い状態にした個体(群)です。新しい栽培種を育種するために用いられる純系も、あくまで程度問題で、純系の個体(群)が全て、全く同じ遺伝子組成ではありません。主な形質について遺伝子がほぼ同じ程度になったレベルで実用的に問題がない範囲の個体群が栽培種、それをもう少し遺伝子の同一性が高いレベルの個体群にしたのが純系と考えてよいでしょう。
全く同じ遺伝子をもっている生物の個体(群)をモノクローン生物とよんでいますが、動物ではクローン・ヒツジ以来、モノクローンの実験用動物が育成されています。植物でこれに近いモノクローン個体(群)は、例えば、一本の(いろんな意味で優秀な)スギの樹木の枝を挿し木によって育成した個体群は、同じ遺伝子をもつモノクローン個体群と考えられます。また、組織培養、細胞培養で一つの組織、細胞から培養によって育成した個体(群)も、同じ遺伝子をもつクローン植物に近いと考えられます。いくつかの作物で、例えば、パイナップル、ランなど、優れた性質を持つ個体の組織、細胞から苗を育成し、栽培されています。全ての個体が同じ遺伝子をもっている場合、想定していた環境条件の範囲内であれば、全ての個体がその優れた性質を発揮し、高い生産性を示すことができます。しかし、栽培期間中に想定外の環境変動、例えば、極端な温度変化、水ストレス、想定外の病原菌などに遭遇すると、全く同じ遺伝子をもつモノクローン個体群は全滅してしまう危険性があります。これに対し、遺伝子の多様性を保持している普通の栽培種は、一部の個体が死滅しても、モノクローン個体群のように全滅することはなく、極端な環境に抵抗できる遺伝子をもつ個体は生き残ることができます。その意味で、それぞれの個体の遺伝子の多様性は種の保存にとって非常に重要です。
最後のご質問、群落を形成している植物個体の遺伝子の同一性については、次のように考えられます。植物がある所で長年にわたって群落を構成していることは、これらの植物にとってその地域の環境が好ましいものであり、これまでの環境の変動の範囲内で絶滅しないで、他の植物によって独占を侵されることなく残ってきたと考えられます。その環境下で独占種になったとしても、自然界では自家受粉ばかりを繰り返してきたとは考えられません。さらに、植物の種類によって、同じ個体の花粉によっては受精できない性質(自家不和合性)をもっている場合があります。虫媒花に見られるように他家受粉が一般的であり、自然界では自家受粉のみを人工的にさせることができないため、自家受粉を繰り返すことによって全く同一の遺伝子をもつ個体群のみになることは期待できません。むしろ、他家受粉などによって独占種の遺伝子の多様性を保持することによって、(上に述べたモノクローン植物と異なり)環境変動によって絶滅することがなく、長い年代にわたって独占種の地位を占めてきたと思われます。
手近の生物学辞書で固定種は見当たりませんでしたが、農作物、園芸の栽培に用いられている栽培種(または、品種)と同じ意味と思います。栽培種は、これに適した環境条件(気象条件、土壌の無機養分(肥料)、栽培管理)で栽培すれば、同じ品質と収量が期待できる、遺伝子組成をもつ個体群とされています。イネであれば、ある栽培種の種子から生育した全ての個体について、収量、米粒のデンプンの性質、味などに関与する遺伝子はほぼ同じになっていますが、その栽培種の品質,収量などに直接、関与していない多くの遺伝子について、全ての個体について全く同じであるとはいえません。ある植物の全ての遺伝子組成を同じようにするためには自家受粉を何回も繰り返す必要があり、年に1回しか受粉―受精―種子形成できない植物では長い年月が必要です。
栽培種に比べ純系(種)は、自家受粉をできる限り繰り返し、遺伝子の組成をできる限り同一に近い状態にした個体(群)です。新しい栽培種を育種するために用いられる純系も、あくまで程度問題で、純系の個体(群)が全て、全く同じ遺伝子組成ではありません。主な形質について遺伝子がほぼ同じ程度になったレベルで実用的に問題がない範囲の個体群が栽培種、それをもう少し遺伝子の同一性が高いレベルの個体群にしたのが純系と考えてよいでしょう。
全く同じ遺伝子をもっている生物の個体(群)をモノクローン生物とよんでいますが、動物ではクローン・ヒツジ以来、モノクローンの実験用動物が育成されています。植物でこれに近いモノクローン個体(群)は、例えば、一本の(いろんな意味で優秀な)スギの樹木の枝を挿し木によって育成した個体群は、同じ遺伝子をもつモノクローン個体群と考えられます。また、組織培養、細胞培養で一つの組織、細胞から培養によって育成した個体(群)も、同じ遺伝子をもつクローン植物に近いと考えられます。いくつかの作物で、例えば、パイナップル、ランなど、優れた性質を持つ個体の組織、細胞から苗を育成し、栽培されています。全ての個体が同じ遺伝子をもっている場合、想定していた環境条件の範囲内であれば、全ての個体がその優れた性質を発揮し、高い生産性を示すことができます。しかし、栽培期間中に想定外の環境変動、例えば、極端な温度変化、水ストレス、想定外の病原菌などに遭遇すると、全く同じ遺伝子をもつモノクローン個体群は全滅してしまう危険性があります。これに対し、遺伝子の多様性を保持している普通の栽培種は、一部の個体が死滅しても、モノクローン個体群のように全滅することはなく、極端な環境に抵抗できる遺伝子をもつ個体は生き残ることができます。その意味で、それぞれの個体の遺伝子の多様性は種の保存にとって非常に重要です。
最後のご質問、群落を形成している植物個体の遺伝子の同一性については、次のように考えられます。植物がある所で長年にわたって群落を構成していることは、これらの植物にとってその地域の環境が好ましいものであり、これまでの環境の変動の範囲内で絶滅しないで、他の植物によって独占を侵されることなく残ってきたと考えられます。その環境下で独占種になったとしても、自然界では自家受粉ばかりを繰り返してきたとは考えられません。さらに、植物の種類によって、同じ個体の花粉によっては受精できない性質(自家不和合性)をもっている場合があります。虫媒花に見られるように他家受粉が一般的であり、自然界では自家受粉のみを人工的にさせることができないため、自家受粉を繰り返すことによって全く同一の遺伝子をもつ個体群のみになることは期待できません。むしろ、他家受粉などによって独占種の遺伝子の多様性を保持することによって、(上に述べたモノクローン植物と異なり)環境変動によって絶滅することがなく、長い年代にわたって独占種の地位を占めてきたと思われます。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2008-08-07
浅田 浩二
回答日:2008-08-07