一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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マツの花について

質問者:   一般   milk
登録番号1623   登録日:2008-05-19
中学生と話していて疑問に思ったのですが、中学校でマツのについて学習すると思いますが、りん片の勉強で、雄花のりん片の外側に花粉ぶくろがついていて、雌花のりん片の内側に胚珠がついていると聞きましたが、理由を教えてください。あと、上の方に雌花がついていて、下の方に雄花がついている理由も教えてください。調べても、なかなか説明が載っていません・・・
milk 様

先日受け付けました質問に対して、自然科学研究機構基礎生物学研究所の生物進化研究部門で研究をしておられる長谷部光泰教授に回答していただきました。
マツの『花』についての疑問は以上でよくお分かりになったと思います。長谷部先生も指摘されているように、裸子植物の生殖器官は「花」とはよびません。英語でも「flower」といえば被子植物の生殖器官のことを意味します。これは大切なことです。

生物の器官がどうしてこんな形をしているのかという疑問に対して、答えは二通りあります。一つは系統的な理由、もう一つは適応的な理由です。系統的な理由は、祖先がもっていた性質をそのまま引き継いでいるという理由、適応的な理由は、環境などに適応しているという理由です。両方の理由は相反した物ではなく、両方が理由になっていることもあります。マツの小胞子嚢(花粉ぶくろと呼ばれているものです)と胚珠の付く位置については適応的な理由は特に無いのではないかと思います。

系統的な理由を考えてみましょう。マツを含む現生裸子植物の祖先はシダ種子植物と呼ばれ、枝状の葉の先端に小胞子嚢を着けていました。現生裸子植物を見てみると、マツを含む針葉樹は全て裏側、ソテツ類は横側、イチョウは先端側、現生裸子植物の中でマツに一番近縁なグネツム類は先端側に着きます。祖先で先端についていた小胞子嚢が裸子植物進化の過程でいろいろな位置に移動いたようです。どうしてこのように移動したかはよくわかりませんが、シダ種子植物の枝状器官が葉へと進化する段階で、いろいろなパターンができあがったのかもしれません。

胚珠については、理由が明確です。松かさ(松ぼっくり)の鱗片をよく見ると2つの組織が癒合してできていることがわかるかもしれません。実は、松かさは苞鱗という葉状器官の腋に、種鱗(葉状器官)と胚珠を持つ枝が生え、両者が癒合してできたものです。胚珠は苞鱗の液から出来た枝に付くので、必ず苞鱗の上側(軸側)に付くわけです。

蛇足ですが、マツの生殖器官は「花flower」と呼ばない方が良いと思います。1800年代には裸子植物の生殖器官は花と呼ばれていたのですが、その後は、比較形態学、古生物学、分子系統学の研究から、花とは呼ばれていません。これらの研究は植物進化学の中でも特筆すべき有名な成果です。花でないことを認識し、花の進化を考える材料にしていただければと思います。

長谷部 光泰(自然科学研究機構基礎生物学研究所生物進化研究部門)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2008-05-26
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