質問者:
教員
なかしま
登録番号1624
登録日:2008-05-22
科学系部活動でシチメンソウの研究を行っています。みんなのひろば
シチメンソウの浸透圧
その中で、シチメンソウの浸透圧を調べようということになり取り組んでいます。
まずはオーソドックスに原形質分離の観察でと思ったのですが、なかなかうまくいきません。原形質分離の観察以外で、植物細胞の浸透圧の測定法があればお教えください。
なかしま さま
有明海の干潟に生えているアカザ科の塩生植物、シチメンソウ(七面草)は、四季それぞれで色が変わることから名づけられ、紅色の色素、ベタシアニン、による秋の紅葉は人々を楽しませています。この植物の葉をスクロース、NaClの高濃度の水溶液に浸しても原形質分離が見られないとのことですが、これがなぜそうのかは、なかなか難しい問題です。
海水にいつもさらされているシチメンソウは、他の塩生植物と同じように細胞にNaClなど塩類が吸収されても、それらが代謝に影響しないように1)塩類を液胞に溜め込んで、原形質の塩類濃度が高くならないようにし、原形質にある葉緑体、ミトコンドリア、原形質の代謝が進行できるようにしている。2)塩生植物がもっていることの多い、塩を溜め込む塩類嚢、または、塩を葉の外側に排出する塩類腺をもち、吸収した塩類が原形質での代謝に影響しないようにしている。3)塩類の実質的な濃度を会合によって低下させる適合溶質である(両イオン性の)グリシンベタイン(シチメンソウにもある)、(両イオン性で親水性(保水性)の高い)プロリン、(中性の親水性の高い)ピニトール、マンニトールなどを多量に合成して原形質に蓄積し、塩類イオンによる代謝阻害作用(酵素蛋白質の塩類による活性阻害)を抑制する。4)塩類の害を抑制する親水性の高い蛋白質が、最近、シチメンソウに見出され、これは親水性の高い蛋白質で、670アミノ酸残基から構成され、大腸菌で発現させると菌に耐塩性を与える[小柴ら(農工大、佐賀大)、2008年日本植物生理学会年会]。恐らくこの保水力の高い蛋白質も適合溶質と同様に、代謝酵素の塩類による阻害を抑制していると考えられる。
以上のように、塩生植物は塩類による代謝を抑制するために原形質に多量に合成される適合溶質(恐らくは適合蛋白質も)を含んでいる。外側から与えた塩類が細胞内に吸収されても、これらの適合溶質と会合し、水に溶けたように解離した状態でないために、細胞内での実質的なイオン濃度が低くなり、(適合溶質をほとんど含んでいない)塩生植物でない植物と異なり、原形質分離が生じにくいように思われます。これが正しいかどうかは、シチメンソウ以外の塩生植物について、また、塩生植物でない植物についても原形質分離の生じやすさを比較すれば分かるでしょう。シチメンソウと同じアカザ科の植物であるホウレンソウは、普通の栽培ではグリシンベタインをほとんど合成しませんが、塩ストレス(または水ストレス)を与えると葉で0.3 M程度のグリシンベタインが合成され、塩類による障害を防いでいます。
有明海の干潟に生えているアカザ科の塩生植物、シチメンソウ(七面草)は、四季それぞれで色が変わることから名づけられ、紅色の色素、ベタシアニン、による秋の紅葉は人々を楽しませています。この植物の葉をスクロース、NaClの高濃度の水溶液に浸しても原形質分離が見られないとのことですが、これがなぜそうのかは、なかなか難しい問題です。
海水にいつもさらされているシチメンソウは、他の塩生植物と同じように細胞にNaClなど塩類が吸収されても、それらが代謝に影響しないように1)塩類を液胞に溜め込んで、原形質の塩類濃度が高くならないようにし、原形質にある葉緑体、ミトコンドリア、原形質の代謝が進行できるようにしている。2)塩生植物がもっていることの多い、塩を溜め込む塩類嚢、または、塩を葉の外側に排出する塩類腺をもち、吸収した塩類が原形質での代謝に影響しないようにしている。3)塩類の実質的な濃度を会合によって低下させる適合溶質である(両イオン性の)グリシンベタイン(シチメンソウにもある)、(両イオン性で親水性(保水性)の高い)プロリン、(中性の親水性の高い)ピニトール、マンニトールなどを多量に合成して原形質に蓄積し、塩類イオンによる代謝阻害作用(酵素蛋白質の塩類による活性阻害)を抑制する。4)塩類の害を抑制する親水性の高い蛋白質が、最近、シチメンソウに見出され、これは親水性の高い蛋白質で、670アミノ酸残基から構成され、大腸菌で発現させると菌に耐塩性を与える[小柴ら(農工大、佐賀大)、2008年日本植物生理学会年会]。恐らくこの保水力の高い蛋白質も適合溶質と同様に、代謝酵素の塩類による阻害を抑制していると考えられる。
以上のように、塩生植物は塩類による代謝を抑制するために原形質に多量に合成される適合溶質(恐らくは適合蛋白質も)を含んでいる。外側から与えた塩類が細胞内に吸収されても、これらの適合溶質と会合し、水に溶けたように解離した状態でないために、細胞内での実質的なイオン濃度が低くなり、(適合溶質をほとんど含んでいない)塩生植物でない植物と異なり、原形質分離が生じにくいように思われます。これが正しいかどうかは、シチメンソウ以外の塩生植物について、また、塩生植物でない植物についても原形質分離の生じやすさを比較すれば分かるでしょう。シチメンソウと同じアカザ科の植物であるホウレンソウは、普通の栽培ではグリシンベタインをほとんど合成しませんが、塩ストレス(または水ストレス)を与えると葉で0.3 M程度のグリシンベタインが合成され、塩類による障害を防いでいます。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2008-08-19
浅田 浩二
回答日:2008-08-19