一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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表皮に葉緑体がないのはなぜ?

質問者:   その他   ちった
登録番号1636   登録日:2008-06-02
生物の問題集をやっていてふと疑問に思いました。表皮には孔辺細胞以外に葉緑体がないことを当たり前のこととして記憶していましたが、最も光を得られるはずの表皮に葉緑体がないのは非効率ではないかと思うのです。よって表皮に葉緑体が存在しない理由を教えてください。
     
また、最も光が届きにくい葉の裏側に多い孔辺細胞にあるというのはどのような理由があるのでしょうか?

以上の2点です。よろしくお願いします。
ちった さま

気孔は光合成に必要なCO2を大気から取り込むためと蒸散によって大気に水を放出する機能をもっていますが、大部分の植物では葉の裏側の表皮細胞の一部が気孔(孔辺細胞)になります。気孔の葉の面積当たりの数は生理的に非常に重要ですが、これがどうして決められているのか?について登録番号1580, 登録番号1598, 登録番号1607に対する回答をご覧下さい。葉の裏側が水に接し、CO2を気体の状態で吸収できないスイレンのような植物に限り、葉の表側の表皮細胞に気孔があります。

孔辺細胞にある葉緑体は、気孔を開くために必要なカリウム・イオンを孔辺細胞に運び込むのに必要なエネルギーを生産する役割をもち、CO2固定によって光合成産物を生産する機能は余り重要ではありません。

太陽光を最もよく受けることのできる葉の表側の表皮細胞になぜ葉緑体がないか?については、多細胞生物に見られる表皮細胞の多くの役割が葉の組織でも必要なためでしょう。葉の組織では、両側の表皮細胞に挟まれた葉肉細胞に葉緑体がありますが、もし、表皮細胞がなければ、葉肉細胞にある葉緑体は、外界の物理的、化学的、生物的ストレスを直接に受けるようになります。大切な光合成装置である葉緑体が表皮細胞にあれば、傷を受けたり、雨水でぬれたり、砂埃による害、せっかく合成した光合成産物が昆虫によって食べられる、病菌感染などによる障害を受けやすくなります。これはヒトで皮膚の役割を考えれば想像できると思います。特殊な場合を除き、表皮細胞には色素の含量は少なく、表皮細胞によって太陽光は余り遮られないようなっています。いくつかの植物では表皮細胞に光合成に有効でないばかりでなく光合成を阻害する紫外線を吸収してしまう成分の多い場合もあります。これはヒトの皮膚で紫外線によって日焼けなどが生じないようにする、化粧品のサンスクリーンと同じと考えてよいでしょう。

では、気孔が、なぜ、大部分の植物で葉の裏側の表皮細胞にあるのか?は、当然考えられることですが、葉の表側の方が、裏側に比べ、上に述べたいろんなストレスを受けやすいためと思われます。雨が降れば葉の表側は水に濡れ、気孔を通してのガス交換がスムーズに進行しないなど、いろんなことが考えられます。孔辺細胞の葉緑体は光合成よりも気孔の開閉に役立っていますが、これは余り照度の高い光を必要としないため、葉の裏側にあっても、植物にとって余り不利にはならないと考えられます。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25
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