一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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茎の伸長

質問者:   一般   オーキシン
登録番号1661   登録日:2008-06-19
茎の伸長について調べています。
植物の先端(成長点)には、活発な分裂細胞があって、この細胞が文字通り、分裂して次々と茎や葉を作り、上へ上へと伸びていくと理解しています。分裂して成長点から取り残された細胞では、今度は細胞の伸長が始まり、茎の伸長は主としてこの細胞の伸長によるものと思います。茎の伸長(細胞の伸長)には、茎の先端部で作られるオーキシンの働きが必要と思います。茎がよく伸びる部分は先端部より少し下で、オーキシンは先端部で作られ、下部に送られて細胞を伸長させ、茎が伸長すると理解しています。間違っているでしょうか。
さて、ヒマワリが太陽に向かって回るという現象は、上のような茎の伸長で説明できると考えています。オーキシンが光を避けるように移動するなどが主原因で、光が当たる側より当たらない側に多量に存在するようになるため、光が当たらない側が成長促進され、光の当たる側(太陽の方向)に曲がると思います。
先日、「植物の生活誌」という本の中に、柴岡弘郎先生のヒマワリの記述があり、その中で、「本葉が二枚くらいの芽生えから、二枚の子葉と一枚の本葉を取り除き、一枚の本葉だけにしたものを2つ用意し、ひとつは光の下におき、もうひとつは、暗室の中に入れる。すると、光の下においたものは、茎は葉のない側に曲がっていく。暗室に入れたものでは、茎は曲がらず茎の伸長もない。光の受けた葉には、その葉の真下部分の茎の伸びを促す働きがあるが、光を受けていない葉には、その働きはないのである。また、二枚の本葉をつけたまま、片方の葉に光が当たらないようにして、光の下に置くと、茎は、光の当たらない葉の側に曲がっていく。」とありました。この記述が、今ひとつ、オーキシンとのかかわり方でよくわからないのです。教えていただけないでしょうか。
オーキシンさま

まず素敵なハンドルネームですねと申し上げましょう。ご質問の中の「植物の先端・・・・・・理解しています。」の部分、本質的には間違っていません。ただ、“成長点”と云う語は現在使われていません。“茎頂”と呼ばれています。また「取り残された細胞」とは考えておらず、「茎頂より下方に送り出された細胞」と考え、この細胞の伸長により、茎頂が上方に押し上げられていると考えています。さてヒマワリの運動ですが、若い芽生えを横方向から光照射すると光の方に曲がりますが、この場合には茎の中でのオーキシンの光側から影側への移動が関与しています。しかし、葉を広げ、葉により光が遮られ、茎に光が当たらないヒマワリの場合(特にヒマワリ畑のような場合)、葉から茎に送られるオーキシンが重要な役割を演じています。オーキシンは茎の先端で作られるだけでなく葉でも作られています。最近の研究の結果では葉の周辺部で合成が活発だということです。光を当てた葉と、暗い場所に保った葉とで、葉のオ-キシン含量を比べますと、全く差がないのですが、葉から茎に送られるオーキシン量を調べますと、光を当てた葉からはオーキシンが送られて来ますが、暗くしておいた葉からは送られて来ないことが分かります。光はオ-キシン合成には影響を与えていませんが、オーキシンの輸送には影響を与えているのです。つまり、光は葉から茎へのオーキシンの輸送を促進しているのです。葉を付けているヒマワリを見て下さい。葉は水平には広がっていなくて、ある角度を持って広がっています。ですから光が斜上方から当てられると、それぞれの葉に当たる光の強さに違いが出て来ます。
その違いに従って葉から茎へのオーキシンの輸送量に差が出て、茎が曲がると考えられます。ただ、実際に観察なさっておられるのでしたら、お気付きのことと思いますが、大きくなったヒマワリは雨の日でも曇りの日でも東から西へと動きますし、太陽が沈んだ後も東へ西へと動きまわるなど、ヒマワリの運動は謎だらけです。
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2008-06-23