一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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凍結防止剤

質問者:   その他   松本崇弘
登録番号0167   登録日:2004-11-22
塩カルとCMAによる植物被害の原因を詳しく教えてください。
松本 祟弘さま

 塩化カルシウムとCMA(酢酸カルシウム・マグネシウム)はともに凍結防止剤として使われているものですが、化学的性状としての大きな違いは溶解度だと思います。
凍結防止効果は、物質の氷点降下作用を利用したもので、重量モル濃度に比例しますので、良く溶けるものほど(溶解度の高いものほど)効果が高いことになります。塩化カルシウムは水に自由に溶けますが、CMAは水に難溶です。そうした性状の違いのため、凍結防止のための利用法は両者で異なっています。塩化カルシウムは溶けやすいので速効性が高く低温でも使用可能です。対して、CMAは溶けにくいため効果が持続しますが、雪氷の粒が路面や互いに付着することを防止し雪をさらさらに保ち除雪を容易にする目的に使われるため、降雪の初期に散布すると効果的といわれています。
 さて、植物被害についてです。CMAは塩化カルシウムに比べ植物に対する影響も少ないといわれています。これにも、溶解度の差が関係していると考えられます。塩化カルシウムの場合はいくらでも水に溶けますので、それをばらまいた場合には局所的に非常に高濃度のカルシウムイオンと塩素イオンの存在する環境が生じることになります。植物に対する影響としては、高濃度のカルシウムイオンが問題となるでしょう。
 一般的に、土壌中のいろいろな無機成分は、水に溶けたフリーのイオンとして、土壌粒子に吸着した状態や鉱物の構成成分として存在しています。多量のカルシウムイオンが土壌中にたくさん入ってくると、微量要素としてフリーに存在していたリン酸などは簡単にリン酸カルシウムとして不溶化し、植物の利用しにくい状態が生じてその生育に影響することが考えられます。また、植物組織中では、多くのカルシウムはアポプラスや液胞に存在しており、細胞質におけるカルシウムイオン濃度は10-6Mから10-8Mに維持する機構を植物は持っていることも良く知られています。それは、もし、細胞内に高濃度のカルシウムイオンが存在すると、リン酸がカルシウムと結合して不溶化してしまうこと、マグネシウムイオンが結合すべき場所にカルシウムが結合してしまうことやいくつかの酵素の働きが阻害を受けることなどの不都合な状況を避けるためと考えられています。高濃度のカルシウムイオンが周囲に存在する結果、細胞内カルシウムイオン濃度も増加し代謝がかく乱され、結果的に生育阻害を引き起こすことにもなると考えられます。そうした点で、溶解度の低いCMAは溶解度の高い塩化カルシウムより植物被害の少ない物質だと考えられます。
帝塚山大学
 藤井 修平
回答日:2009-07-03
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