一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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アセビの誘引

質問者:   その他   oak
登録番号1671   登録日:2008-06-27
庭のアセビの樹姿を変えようと、石の重りで誘引したところ、1ヶ月後に発生した新梢はすべて、樹冠より下の枝の部位から発生した。
そして、すべての新梢は垂直方向に伸びています。
どのような生理作用によるのでしょうか。

通常、アセビの新梢は、頂芽の先端の脇から散形状に発生します。
樹木の枝を剪定すれば、頂芽優勢が外れ、側枝が発生するのはわかりますが、アセビは剪定もしていないのに、なぜ頂芽優勢が外れるのでしょうか。

oak
oak様

みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を、最近、教科書の頂芽優勢の項目を書き換えさせるような研究成果をあげられた、名古屋大学の森 仁志先生にお願いいたしましたところ、以下のような、最新の知識を盛り込んだ、詳しい回答をお寄せ下さいました。ご参考にして下さい。

森 仁志先生からのご回答

oak様
ご質問ありがとうございます。大変興味深い現象で、私も関心を持っています。しかしご質問の件に関して、先に答えを言うならば「残念ながらわかっていません」です。まずそれぞれのご質問にお答えします。

>> それはオーキシンの作用がどのように変化したからでしょうか?
>> 1)頂芽で生まれるオーキシンが極性移動できなくって下へ移動できなくなった為なのか?
 違います。一般的に、オーキシンの極性移動は茎、枝の上下を反対にしても起こります。

>> 2)頂芽が下を向くと、オーキシンが生まれなくなるのか?それは、引力と関係しているのか?
 違います。一般的に、頂芽が下を向いても、オーキシンは作られます。

>> 3)オーキシンは様々な働きをしますが、休眠芽を抑える作用とはどんなメカニズムなのでしょうか?

oakさんの質問は枝を下方(水平?)に誘引した場合の現象が、元々のご質問ですが、まず、一般的な「頂芽を切除する、しない」に関わる頂芽優勢という現象についてご説明します。腋芽(側芽)の成長抑制に関する現象には大きく分けて3つの段階があります。
1段階目はシュート頂(頂芽の中で成長する元となる分裂組織のある場所)から、分裂組織が腋芽に成長する段階です。初めは細胞の固まりですが、成長に従い、いわゆる芽の形になります。
2段階目はできあがった芽が休眠する段階です。芽がどの段階で休眠するかは植物によって異なり、肉眼ではっきりと見える程度まで成長してから休眠するものや、顕微鏡で見ないと見えないもの、それから、枝(茎)の中に埋もれて見えないものなど様々です。
3段階目として、頂芽が切除され休眠腋芽が成長を開始する段階です。

これまで、「オーキシンは腋芽の成長を抑制する」と教科書に記述されていましたが、私たちが調べたところ、「オーキシンは腋芽の成長を抑制するというよりも、腋芽の休眠打破に必要なサイトカイニンという植物ホルモンの合成を抑制している」というのが、オーキシンの働きであることがわかりました。つまり、頂芽がある場合はオーキシンが茎、枝を流れてくるのでサイトカイニンが作られず、腋芽は休眠したままですが、頂芽が切除されるとオーキシンが流れてこなくなるので、サイトカイニンが合成され、それが腋芽に供給されて休眠が打破されるのです。どうやら、休眠芽は積極的に成長を抑制させられているというよりは、成長を促す刺激がないので、休眠したままでいると言った方がいいかもしれません。車に譬えるならば、平坦な場所に、エンジンがかかっていて、ブレーキも踏まれていないけれども、ギアが入っていないので前に進まないアイドリングのような状態です。休眠腋芽が成長を開始すると、それは新たな頂芽になり、オーキシンを盛んに合成するようになります。その結果、オーキシンが再び茎を流れるようになり、サイトカイニンの合成は抑制されますし、オーキシンによってサイトカイニンを分解する酵素が誘導され、茎のサイトカイニンレベルは下がります。
では、腋芽を休眠させる、つまり1段目から2段目になるにはどんな物質が働いているかというと、それは分かっていません。
現在、その候補となるような新しい物質(植物ホルモン)が、見つかりつつありますが、まだ明らかにはなっていません。また、この段階にもオーキシンが関わっていそうですが、それもまだ明らかではありません。
さて、oakさんのご質問に関して言えば、アサガオの腋芽に似たような現象が見られます。アサガオの先端を下に向けると、山になった最も高い葉腋の腋芽が伸びてきます。頂芽があるにもかかわらずです。ちょうどアサガオが咲いている時期ですから試して見て下さい。この場合、頂芽からオーキシンが流れてこなくなったかと言えばそうではありません。最近、東北大学の高橋先生のグループの研究により、この時には サイトカイニンの量が増加していないことが確かめられています。アサガオも頂芽を切除するとオーキシンが流れてこなくなり、茎でサイトカイニンが合成され、その結果、休眠していた腋芽が成長を開始します。しかし、茎(つる)を曲げた場合は、別の仕組みで腋芽の休眠が解除されるようです。 
植物はいろいろな緊急事態に備えていろいろな仕組みを持っているようです。

森 仁志(名古屋大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2008-07-23
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