質問者:
公務員
ハッシー
登録番号1678
登録日:2008-07-03
初めて質問させて頂きます。みんなのひろば
白い花の色素について
学生の時に「白い花にも色素が含まれていて、本当に白い花というものは無い」と習いました。当時はたいした知識もなく何も疑問に感じなかったのですが、最近このコーナーに何か質問してみたいなと思ったところ、ふと昔のことを思い出しました。
突然変異で色素が抜けるということがありますが、自然界でも人工的にでも本当に白い花というのは本当に存在しないものなのでしょうか。葬式用の菊では白さが重要と聞きます。今の技術レベルなら遺伝子操作で作れると思うのですがいかがでしょうか。
ハッシー さま
植物色素は文字通り多彩な多様性を植物に与えていますが、花の色素の主な成分はフラボノイドとよばれる、C6-C3-C6の基本構造をもつ一群の化合物です。植物には現在までに4500種類以上のフラボノイドが見出されていますが、C6-C3-C6の基本構造に結合している側鎖、糖、重合度などによって、花の色に限らず、フラボノイドは多くの機能をもっています(食品の成分としても重要です)。フラボノイドは植物の花ばかりでなく、全ての組織に存在し、細胞の中では、主に液胞に分布しています。
ご質問にありました白いキクを初め、ユリなどの花は白色に見えますが、これらの花にもフラボノイドが含まれています。これらに含まれているフラボノイドは可視光を吸収しませんが、紫外光は吸収します。ヒトの目はいわゆる可視光(波長400 – 700 nm、青色から赤色)を感ずることはできますが、紫外光は感ずることはできないため、白い花の細胞にあるフラボノイドは、私たちにとっては無色です。しかし、花の色は昆虫を誘引するため大切でありこれによって、昆虫は蜜を見つけやすく、また植物は色と蜜によって昆虫を誘引し花粉を運んでもらって完全に受精できるようにしています。チョウの目はヒトには見えない紫外光を感ずることができるため、私たちにとっては感じることのできない無色のフラボノイドもチョウを誘引することができます。
白い花では白い粉が花の細胞にあるように見えます。これは植物の組織では一般的に細胞間隙があり、花弁でも例外ではありません(植物の組織は動物と異なり、液体がなく気体の多い細胞間隙をもっていますが、これらの機能などについては本質問コーナーの登録番号1130, 登録番号1256, 登録番号1625, 登録番号1712に対する回答をご覧下さい)。葉は一般にみどりに見えますが、これは葉の葉緑体にある葉緑素(クロロフィール)が可視光のうちみどり色を比較的、吸収しにくいため、白色光(全ての可視光)のうち、吸収されなかったみどり色が葉の表面で反射、散乱しているためです。白い花弁の場合、花弁に当たった太陽光(白色光)は水のない細胞間隙と細胞とでは光の屈折率が違うため、光が散乱、反射しやすく、そのため白色光の下では、全ての波長の可視光が散乱して白っぽく見えます。花弁を水に浸しそのビンを真空ポンプにつないで減圧にすると、花弁から泡が出てきます。これは花弁の細胞間隙にあった気体が減圧によって放出された結果ですが、この状態にしてから水に浸したまま、気圧を常圧に戻すと細胞間隙が水で満たされます。こうすると花弁の組織の細胞間隙の気体が水によって置き換わり、水をもともと含んでいた細胞と光の屈折率が等しくなるため、(普通の透明ガラスのように)透明になります。白っぽく見えていたのは屈折率に差があって散乱、反射していたためで、透明ガラスと(均等に傷をつけ屈折率が均一でないようにした)すりガラスとの差と考えていただければよいでしょう。
色のついていないフラボノイドでも、紫外光は吸収するため、無色フラボノイドは植物の組織で、太陽光のうち植物に害を与える紫外光のフィルターとしての機能をもっています。ダイズなどの葉の表皮細胞に多い無色のフラボノイド、Kaempferol、は光合成に必要な可視光は吸収せず、光合成を阻害する紫外線だけを吸収して、(サンスクリーンの機能をもつ化粧品と同様)、葉の日焼け防止の役割をもっていると考えられます。恐らく、白い花に多い色のついていないフラボノイドも、チョウのような昆虫の誘引以外に、花弁が紫外光で痛まないようにする役割ももっていると思われます。
遺伝子操作で、フラボノイドの側鎖を変え、自然界には見られなかった青い花をもつバラが日本で作出されています。この質問コーナーの“みんなのひろば”にある植物生理学会のホームページ( http://www.jspp.org )から、学術雑誌PCP → オンライン閲覧 → Browse the Archive → 2007 → November 2007の順にクリックすれば、赤いバラと青いバラ(とこれに関連するフラボノイドの化学構造)が掲載されている雑誌の表紙写真、論文がご覧になれます。白い花を作出するためには、フラボノイドの生合成の経路を修正して無色のフラボノイドになるように改変すればできると思われます。
植物色素は文字通り多彩な多様性を植物に与えていますが、花の色素の主な成分はフラボノイドとよばれる、C6-C3-C6の基本構造をもつ一群の化合物です。植物には現在までに4500種類以上のフラボノイドが見出されていますが、C6-C3-C6の基本構造に結合している側鎖、糖、重合度などによって、花の色に限らず、フラボノイドは多くの機能をもっています(食品の成分としても重要です)。フラボノイドは植物の花ばかりでなく、全ての組織に存在し、細胞の中では、主に液胞に分布しています。
ご質問にありました白いキクを初め、ユリなどの花は白色に見えますが、これらの花にもフラボノイドが含まれています。これらに含まれているフラボノイドは可視光を吸収しませんが、紫外光は吸収します。ヒトの目はいわゆる可視光(波長400 – 700 nm、青色から赤色)を感ずることはできますが、紫外光は感ずることはできないため、白い花の細胞にあるフラボノイドは、私たちにとっては無色です。しかし、花の色は昆虫を誘引するため大切でありこれによって、昆虫は蜜を見つけやすく、また植物は色と蜜によって昆虫を誘引し花粉を運んでもらって完全に受精できるようにしています。チョウの目はヒトには見えない紫外光を感ずることができるため、私たちにとっては感じることのできない無色のフラボノイドもチョウを誘引することができます。
白い花では白い粉が花の細胞にあるように見えます。これは植物の組織では一般的に細胞間隙があり、花弁でも例外ではありません(植物の組織は動物と異なり、液体がなく気体の多い細胞間隙をもっていますが、これらの機能などについては本質問コーナーの登録番号1130, 登録番号1256, 登録番号1625, 登録番号1712に対する回答をご覧下さい)。葉は一般にみどりに見えますが、これは葉の葉緑体にある葉緑素(クロロフィール)が可視光のうちみどり色を比較的、吸収しにくいため、白色光(全ての可視光)のうち、吸収されなかったみどり色が葉の表面で反射、散乱しているためです。白い花弁の場合、花弁に当たった太陽光(白色光)は水のない細胞間隙と細胞とでは光の屈折率が違うため、光が散乱、反射しやすく、そのため白色光の下では、全ての波長の可視光が散乱して白っぽく見えます。花弁を水に浸しそのビンを真空ポンプにつないで減圧にすると、花弁から泡が出てきます。これは花弁の細胞間隙にあった気体が減圧によって放出された結果ですが、この状態にしてから水に浸したまま、気圧を常圧に戻すと細胞間隙が水で満たされます。こうすると花弁の組織の細胞間隙の気体が水によって置き換わり、水をもともと含んでいた細胞と光の屈折率が等しくなるため、(普通の透明ガラスのように)透明になります。白っぽく見えていたのは屈折率に差があって散乱、反射していたためで、透明ガラスと(均等に傷をつけ屈折率が均一でないようにした)すりガラスとの差と考えていただければよいでしょう。
色のついていないフラボノイドでも、紫外光は吸収するため、無色フラボノイドは植物の組織で、太陽光のうち植物に害を与える紫外光のフィルターとしての機能をもっています。ダイズなどの葉の表皮細胞に多い無色のフラボノイド、Kaempferol、は光合成に必要な可視光は吸収せず、光合成を阻害する紫外線だけを吸収して、(サンスクリーンの機能をもつ化粧品と同様)、葉の日焼け防止の役割をもっていると考えられます。恐らく、白い花に多い色のついていないフラボノイドも、チョウのような昆虫の誘引以外に、花弁が紫外光で痛まないようにする役割ももっていると思われます。
遺伝子操作で、フラボノイドの側鎖を変え、自然界には見られなかった青い花をもつバラが日本で作出されています。この質問コーナーの“みんなのひろば”にある植物生理学会のホームページ( http://www.jspp.org )から、学術雑誌PCP → オンライン閲覧 → Browse the Archive → 2007 → November 2007の順にクリックすれば、赤いバラと青いバラ(とこれに関連するフラボノイドの化学構造)が掲載されている雑誌の表紙写真、論文がご覧になれます。白い花を作出するためには、フラボノイドの生合成の経路を修正して無色のフラボノイドになるように改変すればできると思われます。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25
浅田 浩二
回答日:2012-08-25