一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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根粒菌と酸素

質問者:   その他   神力
登録番号0169   登録日:2004-11-30
根粒菌が窒素固定をする際には酸素が固定する酵素を変性させるためヘムタンパクを用意して酸素濃度を低くするという話を聞きました。
ヘムタンパクを無限に作ることはできないので逆に分解される際に酸素を放出して酸素濃度を上げてしまうのではないでしょうか?

どうなっているのでしょうか?
よろしくお願いします。
神力さま

 マメ科植物が、根粒菌感染細胞内で大量に生産するヘムタンパク質であるレグヘモグロビンについての質問で、このタンパク質が窒素固定酵素であるニトロゲナーゼを本当に保護しているのか? 保護しきれなければ却ってニトロゲナーゼに害を与えているのではないか? という疑問だと解釈されます。このような疑問は、レグヘモグロビンは酸素を吸着し続けることによりニトロゲナーゼを保護する、つまり、浸入してくる酸素を受動的に結合して放さないことにより解毒作用を発揮するとの理解に基づくものと思われます。
 確かに、レグヘモグロビンは酸素に対する親和性が極めて高く、酸素を吸着して濃度を低いレベル(20 nM以下)に保つ緩衝機能を果たしていますが、酸素を消費する能力はありません。微小電極を用いた根粒内酸素濃度の測定結果などから、根粒の皮層領域に(レグヘモグロビンの存在する)根粒菌感染領域への酸素の拡散を妨げるバリヤー機能があると考えられています。このバリヤーの実体は不明ですが、酸素濃度が低いのはレグヘモグロビン以外の働きによると考えられているわけです。窒素固定酵素であるニトロゲナーゼの反応には還元力とATPが必要で、根粒菌は低酸素濃度に適応した呼吸系によりATPを生産しています。レグヘモグロビンの機能は単純な酸素の吸着ではなく、むしろ必要かつ十分な量の酸素を効率的に供給するため酸素の吸着と放出を繰り返す動的なものであると考えられます。

なお、植物は、根粒菌の感染によって特異的なタンパク質群(いわゆるノジュリン)を発現させます。上記のヘムタンパク質(レグヘモグロビン)はこれらのタンパク質の一つです。根粒菌は(植物の根の皮層細胞が分裂し肥大してできる組織である根粒の)植物細胞質内に共生し、共生する以前に比べ肥大化や異形化してバクテロイドと呼ばれる状態になります。バクテロイドは、植物の細胞質膜由来のペリバクテロイド膜が包まれ、シンビオソームと呼ばれる細胞内器官(ミトコンドリアや葉緑体に似ていますね)に似たかたちで機能します。根粒菌は酸素呼吸を行う為の酵素系(呼吸鎖電子伝達系)として、酸素濃度が高い環境用のものと低い環境用のものを複数持っていますが、バクテロイドでは極めて低い酸素濃度に対応したものを使っています。
奈良女子大学
 佐伯 和彦
回答日:2009-07-03
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