一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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低温要求時間とは?

質問者:   その他   椋田 
登録番号0170   登録日:2004-11-30
はじめまして。植物の休眠特性について検索していたところ、このサイトにたどり着きました。
内容、興味深く拝見させて頂きました。

ところで、今年は台風が上陸が多く、地球温暖化の影響かと勝手に解釈しています。

それはさておき、植物は休眠過程を経て、春先に新芽が動き出すものと考えてられます。
地球温暖化が進み、気温が上昇すると、植物の春の目覚めは遅くなるのでしょうか。

また、特定の植物で、低温要求時間を測定する実験方法は一般的にどのような手法でしょうか。

お願いします。
椋田さま

ご質問にお答えします。

地球規模での気候変動によって、突然、予想もしなかったような激しい降雨、乾燥、強風、そして温度変化などが起きて、地球上の多くの生物が驚いていることと思います。中でも、移動する手段を持っていないほとんどの植物にとって、その影響は甚大です。

椋田さんのご質問にある植物の花芽・葉芽、それに、種子の休眠機構も大きな影響を受ける現象の一つです。休眠には、温度や光などの外的要因が生育に不適当な場合に 起こる自発休眠と生育に好適な条件を与えても休眠を続ける強制休眠があります。自発休眠は、ある物質が葉で形成されて分化した芽へ移行するために起こるものと考えられています。自発休眠を早く進行させ、その結果、条件が整えば直ちに芽を出させ るようにするために用いられる方法の一つが低温処理です。低温によって自発休眠が 打破されるかどうか、そして、どの程度の低温(温度、あるいは、時間)を要求するのかは、植物によって決定されています。果樹(モモ、ブルーベリー、カキなど)、 花卉(サクラ、ウメなど)や野菜(イチゴなど)など多くの植物が自発休眠を打破するために一定量の低温を要求します。効果が認められている低温とは、おおよそ、0〜 12℃程度(多くのものは7℃程度が最も効果があるらしい)のようです。従って、冬期 の気温が上昇し、この程度まで気温が低下しなければ、開花が遅れ、おいしい果物や 野菜が食べられなくなる可能性も大いにあります。もちろん、休眠打破には光などの 他の要因も関与していますので、気温が上昇しても、春になって日が長くなることを感じて、今までと同様に開花する植物もあると思います。

では、どのようにして低温要求時間を決定するのでしょうか?良く研究されている果樹の例(福島県果樹試験場、http://www.aff.pref.fukushima.jp/seika/seika37/sankou/54.htm )を取り上げてみましょう。2つの異なったモモ品種を7.2℃以下の低温に様々な時間遭遇させ、その後、温室(15℃前後)に移して、芽を出すまでに必要な時間と最終的な発芽率を測定しています。さらに、低温処理時間が短いと、発芽後に開花した花の形態やその後の果実への発達に異常 が現れることもあるようです。他の植物においても、低温要求時間の測定はほぼ同様の方法がとられます。この実験では、調べられた2品種の間の低温要求時間の差は100時間余りでしたが、異なった植物種では、品種間にもっと大きな時間差が見られる場合もあります。これらの実験結果から低温要求時間が推定されると、継続的な気温測定(アメダスなどを利用)を併用して、自発休眠が打破されて芽が動き出す時期がわかります。その時点で、障害が発生しそうな寒さが来ることが予想されれば、何らかの予防策をとることが可能になります。このように、対象となる植物(品種)の休眠打破に関する低温要求時間を知っていることは、農作業の面からは非常に重要なことと言えそうです。

いかがでしょうか?疑問点があれば、ご遠慮なくお問い合わせ下さい。
岩手大学農学部附属寒冷バイオシステム研究センター
 上村 松生
回答日:2009-07-03
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