一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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エクトデスマータとはどういうものですか

質問者:   会社員   しげ
登録番号1701   登録日:2008-07-19
エクトデスマータという原形質連絡糸と同じようなものが葉の表面にあって、葉面からの養分が吸収されるというのが本にのっていたのですが、顕微鏡写真等の資料が見つけれませんでした。
これはどのような物なのでしょうか。
できれば、参考資料などがあれば教えてください。
よろしくお願いいいたします。
しげ 様

回答が遅くなって申しわけありません。
エクトデスマータは、ウイルスなどの病原体の侵入や養分の葉面吸収に関連して注目される構造体のようですね。この構造体について詳しい研究者を探していましたが見つけることができませんでしたので、葉の構造に詳しい九州大学の上野先生に回答をお願いしました。ご参考にして下さい。

(上野 修先生からの回答)

残念ながら、私はectodesmataについて研究したことはありません。しかし、葉の微細構造を電子顕微鏡で観察することも多く、参考書から得た情報ではありますがお知らせします。

次の参考書にectodesmataについて記載があり、その要約を書きます。いずれも植物解剖学のテキストとして有名です。直訳に近い文章なので、分かりにくいかも知れません。できれば、原著の英文を直接読まれることをお勧めします。

1) Evert, R.F. 2006. Esau’s Plant Anatomy, Third Edition. Wiley-Interscience, New Jersey. pp. 214-215.(手書きの表皮細胞壁の図が載っており、その中にteichodeが示されています).

2) Esau, K. 1977. Anatomy of Seed Plants, Second Edition. John Wiley and Sons, New York. pp. 50-51.

Ectodesma (複数形 ectodesmata)

外気に面した表皮の細胞壁にも原形質連絡が起こっていると考えられていたことがあり、これをectodesmataと呼んだ。しかし、その後の研究により、この構造物には細胞質(cytoplasmic strand)は含まれておらず、表皮細胞の原形質膜から細胞膜を覆うクチクラの近傍まで、細胞壁の他のところよりも繊維がゆるい空間(interfibrillar space)の帯が伸びていることが分かってきた。この帯を可視化するには特別な処理が必要。この構造物はteichode(ギリシャ語に由来し、teichosはwall、hodosはpathを意味する)とも呼ばれる (Franke, 1971)。Teichodeは葉からの吸収や排泄の経路との関連が考えられている (Lyshede, 1982)。

1) Franke, W. 1971. Uber die Natur der Ektodesmen und einen Vorschlag zur Terminologie. Ber. Dtsch. Bot. Ges. 83, 533-537.

2) Lyshede, O.B. 1982. Structure of the outer epidermal wall in xerophytes. In: The Plant Cuticle, pp. 87-98, D.F. Cutler, K.L. Alvin, and C.E. Price, eds. Academic Press, London.

その他の文献:
1) Franke, W. 1967. Mechanisms of foliar penetration of solutions. Annu. Rev. Plant Physiol. 18, 281-300.

2) Merkens, W.S.W. et al. 1972. Observations on ectodesmata and the virus infection process. J. Ultrastruct. Res. 41, 397-405

3) Jeffree, C.E. 1986. The cuticle, epicuticular waxes and trichomes of plants, with reference to their structure, functions, and evolution. In: Insects and the Plant Surface, pp. 23-46. B.E. Juniper and R. Southwood, eds. Edward Arnold, London.

上野 修(九州大学大学院農学研究院・植物資源科学部門・植物生産生理学研究室)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2008-07-29