一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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年中開花し、結実を継続できる植物はどのくらいあるのでしょうか。

質問者:   自営業   安田修三
登録番号1702   登録日:2008-07-20
私はタイで代替燃料として注目されているジェトロファを栽培研究をしております。この作物は季節や温度差、太陽光の変化による開花季節がありません。人工的に感光性の性格をなくしたりする無感光性植物であって、収穫時期が集中することが見られますが、ジェトロファは年中季節を問わず、開花と結実を継続します。開花条件は、肥料、給水と太陽光であると考えますが、この作物は特殊な性格なのでしょうか。世界で栽培されているジェトロファ栽培は天然条件の下、収穫が限られますが、環境を整えれば、毎日開花する植物と言うのは、多くあるのでしょうか。又このような作物の名称をなんと呼ぶのでしょうか。

宜しくご指導のほど、お願いします。
安田修三
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安田修三 さん:

お待たせしました。ご質問は、熱帯地域植物の開花などを専門に研究されている、人間文化研究機構 総合地球環境研究所の酒井章子先生に回答をお願いしました。ご自身の研究に基づいたたいへん詳しい解説ですので、きっとお役に立つと思います。植物も自分の種を繁栄させるためにいろいろな仕組みを備えて生きています。この植物の営みに逆らって人が植物を利用しようとすることはできませんね。

年中開花し、結実を継続できる植物はどのくらいあるのかというご質問ですが、わたしの出来る範囲でお答えさせていただきます。
まず、年中開花する、というのは、1個体の植物が継続して開花しているという場合と、1個体は開花を断続的にしているが、集団全体でみるといつでも花・実がある、という場合があると思います。植物の開花のタイミングは、ご指摘のように養分、光、温度、水分といった物理的環境、また、花粉媒介をする動物、種子を散布する動物や種子の発芽の性質などに左右されます。他家受粉をする植物の場合は、ほかの個体との同調性も問題になります。日本のように四季がある場所では、繁殖できない冬があるので、ほとんどの植物が1年に1回繁殖しますが熱帯、とくにはっきりした乾期のない熱帯では、1年に数回繁殖するものから数年に1度のものまで、さまざまな開花パターンがみられます。
全体的な傾向でいうと、寿命の長い樹木や遷移の後期の安定した環境にあるような植物ではながい開花間隔をもち、寿命が短く攪乱環境にあって死亡リスクが高いような環境にある植物は開花間隔が短く、長い間咲き続けるような植物もみられます。また、自家受粉をする植物は、他個体と同調する必要がないため、長い開花期間をもつ傾向があります。
コスタリカの研究で、熱帯林の約300種の樹木がどんな開花パターンを示すのか調べた研究がありますが、その中ではContinual flowering(連続開花植物)に分類された植物は7%程度でした。わたしたちがボルネオ島で約300種について行った観察では連続開花植物は見られませんでした。また、1個体は開花を断続的にしているが、集団全体でみるといつでも花・実があるという植物の代表的なものに、イチジクがあります。イチジクはイチジクの花を唯一の繁殖場所としている花粉媒介者(イチジクコバチ)を養うため、集団全体でみるといつもどれかの個体の花が咲いている状況を作り出しています。
ご質問にありましたJetrophaの場合、自家受粉ができ、Apomixis(無性生殖、花粉がなくても結実できる)という性質があるようだ、という報告があるので、わりと開花時期に関しては融通のきく植物のように思えます。そのために、物理的条件が十分であれば、開花し続けるということがあるのかもしれません。

酒井 章子(総合地球環境研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-07-29