一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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桃色の花から種を採った時,翌年出る色は何ですか。2回目です。

質問者:   教員   てりー
登録番号1723   登録日:2008-08-03
前回は,ご回答ありがとうございました 。大変参考になりました。具体的にいくつかの疑問点がでましたのでご質問したいと思います。

1.ヤグルマソウ,ホウセンカ,ヒナゲシは他家受粉で増えますか。
2.他家受粉で増えると仮定します。いま,Aという株があったとします。そこに他 の花(株)のいろいろな色のおしべの花粉が飛んできて受粉しました。Aの株には, 花ごとに色々な遺伝子を持った種が出来るといえるでしょうか。
3.ヤグルマソウの色素はすべてシアニジン型でシアニンと呼びますか。
4.ヒナゲシの深赤色はシアニジン型でメコシアニンと呼びますか。
5.ヒナゲシの赤色はマルビジン型でいいのでしょうか。
6.ヒナゲシの花色にルチンは関係していますか。
7.ホウセンカのアントシアニンの種類を教えて下さい。
8.市販のヒナゲシの種を庭に蒔いて毎年咲くのを楽しみにしています。桃色 が一番好きな色で,桃色に咲いた株(一つの植物体,複数の花)からとれた種を蒔いたところ,一番多く咲いたのは赤色でした。またオレンジ,桃色も少し咲きました。
様々な色の花が咲いたのはなぜでしょうか。
アサガオのように多彩な花色を決める複数の遺伝子(群)がヒナゲシにもあるのでしょうか。
9.仮にヒナゲシでも多数の遺伝子が関係しているとして,すべてが同じ遺伝子を持つ 個体は,土壌の性質から受ける影響が違うことで様々に発色するのでしょうか。 (質問8と関連しています)
10. ヒナゲシのアントシアニンの濃度は酵素の遺伝子を活性化する遺伝子や液胞の中を 弱アルカリ化する遺伝子に関係しているでしょうか。(質問8,9と関連してい ます)
11. 以上のことから考えてホウセンカ,ヒナゲシ,ヤグルマソウですべて桃色の花が咲く種を採取することは可能ですか。

以上宜しくお願いします。
てりー様

“みんなのひろば”へのご質問ありがとうございました。ご質問の内容が多岐にわたっていたため、一人の回答者では全部をカバーすることができず、二人目の回答者にもお願いしたりしていたため、回答をお送りするのが遅くなってしまいました。まず最初は、前回のご質問の回答を担当して頂いた花の色について研究をなさっておられる名古屋大学の吉田久美先生にお願いし、ついで、吉田先生にご回答頂けなかった部分について、分子遺伝学がご専門の東京大学の塚谷裕一先生にお願いいたしました。お二人の先生から以下のようなご回答が寄せられています。お役に立つと思います。

吉田先生のご回答
3.ヤグルマギクには青、ピンク、紫などいろいろな花色がありますが、発色団に関しては、青はシアニジン、ピンクはペラルゴニジン、紫色はマルビジンであることがわかっています。それぞれ、異なる生合成系遺伝子を持つはずです。
4-6.ヒナゲシの深赤と赤の区別がよくわかりませんが、文献ではシアニジン配糖体のようです。発色にルチンが関与するかどうかはわかりませんでした。
7.ホウセンカはシアニン、マルビジン配糖体が含まれるようです。

花色は生育温度や光、肥料の条件でも変化するようで、農家でも同じ品質の花を出荷するのに大変苦労しておいでです。
どういう構造のアントシアニンを生合成するかは、基本的には遺伝子で決定されますが、遺伝子はあくまでも設計図であり、色素を作るのは酵素です。
設計図通りの酵素がきちんと作られるかどうかという部分については、調節遺伝子や環境要因など様々で、まだまだ研究途上の問題もあります。
さらに、酵素がきちんと働くかどうかも、補酵素や細胞の状態も大きく関係します。ピンク色というのもいろいろ主観がはいりますが、いわゆる赤色の色素の濃度が薄いということであれば、色素の生合成量をどう調節するか、作りすぎないようにするかという問題となります。なかなか難しいとことです。赤か、白かということなら、ON-OFF制御ですみますが。


塚谷先生のご回答
1. はい、他家受粉です。ああいう華やかな色で、大きな花弁を持つ植物は、基本的に他家受粉をします(自家受粉をしないわけではありませんが)。花びらで昆虫や鳥などポリネーター(花粉の媒介者)を呼ぶことで、花粉を受け渡ししてもらうためです。
2. はい、そういう仮定であれば、もちろんそうなります。花ごとにと言うよりは、タネごとにですね(もちろん、自分の花粉が着いたタネも混じっているはずですが)。またそれに加えて、元々の株が遺伝的に異なる遺伝セットを持っているために、自家受粉でも子孫で花色が分かれることがあります。例えば人でもAB型の人は、Aという性質とBという性質の、2つの遺伝セットを持っているので、O型の人(Oの性質の遺伝子のみ2セット)との間に生まれる子供はA型とB型に分かれますよね。
8. おそらく、2の理由によるものでしょう。
華やかな色彩の花を持つ植物は、どれでも花色を決める遺伝子を複数持っています。
9. 同じ遺伝子セットを持っている兄弟同士であっても、栽培条件や土壌の性質などで、花色が変化することはあります。これはまったく同じレシピ(これが遺伝子ですね)で料理を作っても、素材の質が違ったり料理の温度が違ったりすれば(それこそ水や塩が違うだけでも)、できあがった料理の味が大きく変わるのと、同じです。ただし、カレーを作っているつもりがコロッケになってしまうことはないように、その変化の幅には限度があります。その幅を決めているのは、やはり遺伝子です。私たちの場合も、日を浴びると肌の色が濃くなります。これも遺伝子が変化したわけではなく、環境の要因によって色が変わる実例です。でもこの場合も、さすがにカメレオンのように緑になったりすることまではできません。これは遺伝子が、肌色の変化の幅をあらかじめ設定しているからです。
10. 関係することは十分ありえます。 
11. 可能です。実際、ホウセンカでもヤグルマソウでも、ピンクの花だけを咲かせる系統は市販されています。
 ただ、お手元にある株からすぐに可能かどうかは、その株が持っている遺伝子セットの性質によります。2で書いたとおり、もしAB型のようなタイプの株であれば、どうしても子孫は花色がいろいろになってしまうからです。他家受粉の影響を避けたいのであれば、花に袋をかけて虫などの訪問を遮り、その代わり、筆などで自家受粉を手助けてあげればよいかと思います。ただしヤグルマソウのようなキク科の花は、雄しべとめしべの熟すタイミングがずれますので、そこをよく見極めて同じ株の別の段階の花を活用して、自家受粉させてください。

吉田 久美(名古屋大学)/塚谷 裕一(東京大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2008-08-25