一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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サクラのゆ合組織の成長推移

質問者:   その他   oak
登録番号1730   登録日:2008-08-06
サクラの枝打ちをした切り傷口にサイトカイニン・フルメット液剤(ホルクロルフェニュロン)を塗布処理し、ゆ合組織の発達消長を観察致しました。品種はオオヤマザクラ25年生です。
10日間隔でゆごう組織の発生幅をミリ単位で計測し、観察した結果、切断部位からのゆ合組織の発達は、6月下旬から7月上旬にかけて成長のピークを迎えますが、その後急速に減速し、9月には完全に成長停止します。9月は充分気温が高く、月平均気温は6月と同じであるにもかかわらず、9月には成長が完全停止する理由は何故か?
気温以外の要因として考えられるのは、日長が考えられます。
そこで、日長の変動とゆ合組織の成長速度の季節的変動を対比させたところ、ほぼ一致いたしました。
この事から「サクラゆ合組織の成長は、日長によってコントロールされている」と推論されます。

頂芽か葉か?どちらかの組織に存在する光受容体が、日長の変化を読み取って樹体内の材の成長のコントロールに関与していると考えられますが如何でしょうか?
切断部位のゆ合組織の成長量の推移も、この材の成長変動に連動して、内部組織の成長(形成層細胞活動)を反映しているように思はれるのですが。
よろしくお願いします。
oak さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
このコーナーを主催している学会は、主として植物の基本的な働き、植物に共通する営みなどを専門にしている研究者の集団で、特定の植物の特殊な状況の応答性に関するご質問には得意ではないのです。ご質問も、「傷害部における癒傷組織の形成」という課題と翻訳してしまいますし、研究は「癒傷組織形成が明らかで、もっとも使いやすい植物」を使って実験室内での研究が主なものとなってしまいます。そのため野外でのオオヤマザクラでの反応、またそれに対するホルクロルフェニュロンの効果に特殊化したお答えをすることはできません。しかし、ご質問の主旨は、ご自身の幾つかの観察結果に基づいて、このように考えて(解釈して)よいか、とのことですので、私が判断できる範囲でお答えしておきます。
「9月には成長が完全停止する理由は何故か?」日長の変化と成長とが一致したので、「日長の変化を読み取って樹体内の材の成長のコントロールに関与していると考える」ことは間違いではないと思います。しかし、それだけでしょうか?9月になると平均気温も下がり、平均光量も低下します。落葉広葉樹では、平均すれば葉は老化段階に入りかけた頃です。このような条件の下では、光合成活性がかなり低下しています。細胞分裂、細胞拡大などの成長は大きなエネルギーを必要とする過程ですから、それを賄うだけの光合成生産が得られないので癒傷組織の成長は目立って遅くなった、とも解釈されます。また、癒傷組織の形成には植物ホルモンの供給が必要で、サイトカイニンはその1つですが、それだけではありません。傷害部位周辺へのオーキシンの蓄積も必要と考えられます。枝を切った樹木などの植物ホルモンの動態はほとんど分かっていませんが、9月になって傷害部位周辺における植物ホルモン組成が癒傷組織の形成に適当でなくなった可能性も考えなければなりません。このように幾つかの可能性がありますので、それらを1つずつ検証するようにしてください。最後に、切り口にできる癒傷組織は限定的な形成作業ですが、材の成長は形成層における継続的な形成作業で、両者には違った制御機構が働いています。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-08-11
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