一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ハスの葉について

質問者:   小学生   ゆりん
登録番号1746   登録日:2008-08-19
去年から家のベランダで大賀ハスを育てています。今年は自由研究でハスの葉について調べています。ハスの葉にははっすい性があることと、なぜそうなるのかは調べてわかったのですが、ベランダで育てている朝顔は昼間、暑く水不足になると葉がしおれますが、霧吹きで水をかけてやるとしばらくして元気になります。ハスは水をかけてもはじいてしまうので、逆に暑さや乾燥にはどうやって耐えているのか不思議に思いました。
顕微鏡で葉の表や裏をしらべましたが、あまり良く観察が出来ませんでした。
ハスの葉の気孔は表と裏の両方にあるのでしょうか?
また、立葉と浮葉のふたつがありますが、気孔のある場所やあるなしなど、違いはあるでしょうか?
さわった感じでは浮葉のほうがよりすべすべしているように思いました。

また、茎を切ると、れんこんと似ていてびっくりしましたが、これは空気の通り道だと聞きました。むかし、大賀ハスのお祭りでお酒をハスの葉で飲むというのをやっていましたが、水ははじいてもお酒は葉の上から茎を通ることができるのも知りたいです。ためしに立ち葉を一枚切って葉に水をためてみましたが、水は茎の下からは出てきませんでした。
ハスの場合、呼吸の仕方はどうなっているのかも教えて下さいお願いします。
ゆりん さん

このコーナーに質問をありがとうございました。この質問には東京大学で植物について研究されている野口 航先生がお答え下さいました。ご参考にして下さい。



(野口先生からの回答)
ハスを詳しく観察されていて、とても良い自由研究になっていると思います。ご質問に順に回答させていただきます。

(1)「ハスの葉が暑さや乾燥にどうやって耐えているのか」
ハスはご存知のように池や沼などに生える水生植物です。ふつうは水不足になることはありません。もし池や沼が干上がってしまったときに、葉がどうなるかはわかりませんが、おそらく枯れてしまうのだと思います。

(2) 「ハスの葉の気孔は表と裏の両方にあるのか。立葉と浮葉では気孔の数や場所に違いがあるのか」
顕微鏡で観察してみました。立葉(水上葉)と浮葉のどちらにも表側には気孔がありましたが、裏側にはありませんでした。葉の面積あたりの気孔の数にも大きな違いは見られませんでした。水上葉と浮葉の表側にはどちらも毛が密集していました。触り心地の違いと表面の違いとの関係は分かりませんでしたが、毛の性質の違いなのかもしれません。

(3) 「ハスの葉でお酒をどうやって飲むのか」
「象鼻杯」と言われ、お祭りなどで行われている飲み方のことだと思います。水でもお酒でもそのまま葉の上に注いでも飲めません。葉のつけね(裏側で葉柄とつながっている部分)を表側から、箸や細い棒で穴をあけてみてください。葉の表側の中心あたりの少し白っぽくなっている部分です。葉柄の中の空気の通り道(通気組織といいます)とつながるはずです。そうすれば、水でもお酒でも飲めるはずだと思います。
ちなみに、ゆりんさんが「茎」と質問文で書かれているのは、文脈から推しはかると「葉柄」のことだと思います。「葉柄」とは、茎と「葉身(葉といわれる部分)」とをつなぐ部分です。栽培されているアサガオでは葉柄がはっきり分かると思います。ハスの葉柄は水中から水上につき出すほど長くなっているのです。

(4) 「ハスでは呼吸をどう行っているのか」
とても難しい質問です。水中では空気中と違い、酸素不足になってしまいます。アサガオも根を水に浸してしまうと、根が酸素不足で呼吸できなくなり、うまく生育できなくなります。ハスは水中でもうまく生きられるように、空気の通り道(通気組織)を、葉柄や水面下の地中の地下茎で発達させます。どのように地下に酸素を多く含む空気が運ばれるのかについては、面白い研究があります。ハスでは、若い葉に太陽の光があたると、葉が暖まります。そのとき、若い葉の中の細胞と細胞の隙間(細胞間隙といいます)の空気が膨張し、圧力があがります。その圧力の高い空気が、若い葉の葉柄の通気組織を通って、地下茎の通気組織に移動して、地下茎に酸素を送っています。地下で呼吸してでてきた二酸化炭素は古い葉の葉柄の通気組織を通って、水面上に出てきます。このような空気循環系を利用して、地下の組織が酸素不足になるのを防いでいるようです。
ゆりんさんが文中で「茎を切るとれんこんのようだ」と書かれています。「れんこん」を漢字で書くと「蓮根」です。つまりハスの根です。正しくは「根」ではなく「地下の茎(地下茎)」を、わたしたちは食用にしています。 食用のためのハスと、花を鑑賞するためのハスとは品種が異なりますが、同じハスです。ハス(蓮)はご存知の通り、仏教やヒンズー教など文化的にも重要な植物です。ハスの文化的な側面についても調べるのも面白いかもしれません。

野口 航(東京大学理学系研究科生物科学専攻)
(謝辞―ハスの葉の顕微鏡観察では種子田春彦さんにも手伝ってもらいました)。
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2008-08-26