質問者:
中学生
おむすび うめ
登録番号1754
登録日:2008-08-24
こんにちは。みんなのひろば
自爆装置と活性酸素とオゾン層の問題
さっきホームページで、自爆装置について見ました。
病気になると活性酸素が出て自爆すると書いてありました。
活性酸素は紫外線でも出ると聞きましたが、オゾン層が破壊されてきて最近は植物では活性酸素が発生しやすいのですか。
また、紫外線で出た活性酸素で、自爆装置が働いたりするのですか?
大量の活性酸素でも自爆装置が働きにくい植物っているのですか?
(いたらオゾン層破壊されても植物は生きられるのかなあと思いました。)
よろしくお願いします。
おむすび うめ 様
“みんなのひろば”-植物科学のトピックス-でみられた植物の自爆装置は、一枚の葉の一部に病原菌が感染したとき、細胞のもっている自爆装置によって病原菌と感染細胞を死滅させ、葉の残りの部分が感染しないようにしている植物の病気を防ぐ方法の一つです。これに活性酸素が関与していることから、オゾン層、植物の生育、地球環境までイメージを広げられているのに感心しました。
植物、動物のような多細胞生物では、一生の間、同じ組織、細胞が働いているのではなく、分解、新生を繰り返しています。植物で、例えば、イネの種子が発芽するとき、胚乳の養分が芽と根の成長のため使われ、胚乳の組織、細胞はイネの芽や根の成長につれてなくなってしまいます。このように、病原菌に感染した緊急事態のような場合ばかりでなく、植物の一生の成長の間、この様な細胞の死、新生が繰り返し進行しています。このような細胞の死は遺伝子に組み込まれていて、一生の間遺伝子にプログラムされた通りに進行することから、プログラム細胞死(または、アポトーシス)とよばれています。今は、イネの穂が出る頃ですが、古いイネの葉がプログラム細胞死で枯れ上がり、分解され、その養分がイネの新しくできた穂、実に移動して秋の実りを迎えます。プログラム細胞死は植物の発芽から、実をつけるまでの一生の間繰り返し、いろんな組織、細胞で進行しています。この様にプログラム細胞死は植物の成長に欠かすことのできない過程です。
プログラム細胞死は遺伝子に組み込まれている信号に従って進行しますが、その信号となる分子(エリシター、活性酸素など)、信号分子に従って合成される作用分子(多種類の酵素、活性酸素など)について詳しい研究が行われています。葉の一部が病原菌に感染したとき、トピックスにあった様に信号分子であるエリシターができ、これによって作用分子である活性酸素ができ、これによって感染した部分の葉の細胞が“自爆”し、感染菌を死滅させ、感染を広がらないようにしています。
紙を空気中に長い間置いておいても空気中の酸素と反応しないことから見て、空気中の酸素は反応性の低い分子です。しかし、空気中の酸素も、これが還元される、またはエネルギーをもらい励起されると、スーパーオキシド(O2-), 過酸化水素(H2O2), ハイドロキシル・ラジカル(・OH)、一重項酸素(1O2)、となり、これらは(細胞成分を酸化する)反応性が高いため、これらをまとめて活性酸素とよんでいます。酸素を利用する全ての生物(好気性生物)は、ヒトを含めとくに環境ストレスのないときでも、細胞内で活性酸素が常に発生しています。太陽光を利用し光合成によって成長する植物も例外ではなく、植物は生物のうちで最も活性酸素ができやすい生物です。活性酸素は細胞成分を酸化、分解しやすいため、これを消去するための酵素や成分がなければ、細胞は死滅してしまいます。太陽光を常に浴びている植物の葉が、ヒトの皮膚と違って余り日焼けをしないのは、この活性酸素を消す能力が高いためです。活性酸素を消す能力が高くても、環境ストレスで消す能力以上に活性酸素がたくさんできると、細胞成分が酸化分解され、いろんな活性酸素による障害が生じます。活性酸素の生成、消去のバランスをうまく調節して、上の例のように活性酸素によって病原菌感染を防いでいる場合もあり、また、活性酸素はプログラム細胞死を初め細胞内の信号分子になっている場合もあり、活性酸素は細胞の中で障害を引き起こす悪い作用ばかりをしているだけではなく、これが必要な過程もあります。
ところで、大気のオゾン層がフレオンガスなどのために消失し、太陽光のうち、今までオゾン層で遮られていた紫外線の地上に降り注ぐ量が、とくに地球の南側、オーストラリア、南極で多くなっています。活性酸素は上のように、紫外線が植物に当たったときだけにできるのではなく、紫外線がなくとも常に発生していますが、この程度のレベルの活性酸素は植物がこれまで進化の間に獲得した活性酸素を消す機能によって安全な低いレベルに保たれています。いくつかの植物で、春、新芽が赤くなることがありますが、これはこの赤い色素(アントシアニン)によって紫外線を吸収し、新しい葉緑体に余り紫外線が当たらないようにするためです。これも植物の紫外線対策ですが、しかし、これまでのレベルより高い紫外線が植物に当たると、葉緑体の光合成機能が痛められてその結果、活性酸素のできる量がさらに増加し、これが植物の活性酸素を消す機能を超えた場合、植物は活性酸素による障害を受けるようになるでしょう。ご質問にある“大量の活性酸素でも自爆装置が働きにくい植物”は活性酸素を消す能力が非常に高い植物になりますが、余りに高すぎて、病原菌、感染部を死滅させるのに必要な活性酸素のレベルを保つことができず、病原菌でやられやすくなるかもしれません。
“みんなのひろば”-植物科学のトピックス-でみられた植物の自爆装置は、一枚の葉の一部に病原菌が感染したとき、細胞のもっている自爆装置によって病原菌と感染細胞を死滅させ、葉の残りの部分が感染しないようにしている植物の病気を防ぐ方法の一つです。これに活性酸素が関与していることから、オゾン層、植物の生育、地球環境までイメージを広げられているのに感心しました。
植物、動物のような多細胞生物では、一生の間、同じ組織、細胞が働いているのではなく、分解、新生を繰り返しています。植物で、例えば、イネの種子が発芽するとき、胚乳の養分が芽と根の成長のため使われ、胚乳の組織、細胞はイネの芽や根の成長につれてなくなってしまいます。このように、病原菌に感染した緊急事態のような場合ばかりでなく、植物の一生の成長の間、この様な細胞の死、新生が繰り返し進行しています。このような細胞の死は遺伝子に組み込まれていて、一生の間遺伝子にプログラムされた通りに進行することから、プログラム細胞死(または、アポトーシス)とよばれています。今は、イネの穂が出る頃ですが、古いイネの葉がプログラム細胞死で枯れ上がり、分解され、その養分がイネの新しくできた穂、実に移動して秋の実りを迎えます。プログラム細胞死は植物の発芽から、実をつけるまでの一生の間繰り返し、いろんな組織、細胞で進行しています。この様にプログラム細胞死は植物の成長に欠かすことのできない過程です。
プログラム細胞死は遺伝子に組み込まれている信号に従って進行しますが、その信号となる分子(エリシター、活性酸素など)、信号分子に従って合成される作用分子(多種類の酵素、活性酸素など)について詳しい研究が行われています。葉の一部が病原菌に感染したとき、トピックスにあった様に信号分子であるエリシターができ、これによって作用分子である活性酸素ができ、これによって感染した部分の葉の細胞が“自爆”し、感染菌を死滅させ、感染を広がらないようにしています。
紙を空気中に長い間置いておいても空気中の酸素と反応しないことから見て、空気中の酸素は反応性の低い分子です。しかし、空気中の酸素も、これが還元される、またはエネルギーをもらい励起されると、スーパーオキシド(O2-), 過酸化水素(H2O2), ハイドロキシル・ラジカル(・OH)、一重項酸素(1O2)、となり、これらは(細胞成分を酸化する)反応性が高いため、これらをまとめて活性酸素とよんでいます。酸素を利用する全ての生物(好気性生物)は、ヒトを含めとくに環境ストレスのないときでも、細胞内で活性酸素が常に発生しています。太陽光を利用し光合成によって成長する植物も例外ではなく、植物は生物のうちで最も活性酸素ができやすい生物です。活性酸素は細胞成分を酸化、分解しやすいため、これを消去するための酵素や成分がなければ、細胞は死滅してしまいます。太陽光を常に浴びている植物の葉が、ヒトの皮膚と違って余り日焼けをしないのは、この活性酸素を消す能力が高いためです。活性酸素を消す能力が高くても、環境ストレスで消す能力以上に活性酸素がたくさんできると、細胞成分が酸化分解され、いろんな活性酸素による障害が生じます。活性酸素の生成、消去のバランスをうまく調節して、上の例のように活性酸素によって病原菌感染を防いでいる場合もあり、また、活性酸素はプログラム細胞死を初め細胞内の信号分子になっている場合もあり、活性酸素は細胞の中で障害を引き起こす悪い作用ばかりをしているだけではなく、これが必要な過程もあります。
ところで、大気のオゾン層がフレオンガスなどのために消失し、太陽光のうち、今までオゾン層で遮られていた紫外線の地上に降り注ぐ量が、とくに地球の南側、オーストラリア、南極で多くなっています。活性酸素は上のように、紫外線が植物に当たったときだけにできるのではなく、紫外線がなくとも常に発生していますが、この程度のレベルの活性酸素は植物がこれまで進化の間に獲得した活性酸素を消す機能によって安全な低いレベルに保たれています。いくつかの植物で、春、新芽が赤くなることがありますが、これはこの赤い色素(アントシアニン)によって紫外線を吸収し、新しい葉緑体に余り紫外線が当たらないようにするためです。これも植物の紫外線対策ですが、しかし、これまでのレベルより高い紫外線が植物に当たると、葉緑体の光合成機能が痛められてその結果、活性酸素のできる量がさらに増加し、これが植物の活性酸素を消す機能を超えた場合、植物は活性酸素による障害を受けるようになるでしょう。ご質問にある“大量の活性酸素でも自爆装置が働きにくい植物”は活性酸素を消す能力が非常に高い植物になりますが、余りに高すぎて、病原菌、感染部を死滅させるのに必要な活性酸素のレベルを保つことができず、病原菌でやられやすくなるかもしれません。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2008-08-28
浅田 浩二
回答日:2008-08-28