一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

さつまいもの上下の違い

質問者:   その他   ono
登録番号1757   登録日:2008-08-26
子供の自由研究にサツマイモの発芽の実験をさせました。
サツマイモを水に入れると片方が沈み片方が浮きます。水に浮く方を上とすると、サツマイモ上部から発芽し下部から発根します。この上下関係はサツマイモを切っても変わりません。
水に沈むサツマイモ下部を上にして水につけておくと、下(サツマイモ上部)から根は出ましたが、芽も下から出ました。
このことから、根はどの向きにおいても下から出るが(重力を感知している?)、発芽する方向はあらかじめ決まっていると思われます(植物ホルモンのため?)。
非常に面白い現象ですが、子供の自由研究の考察に困っています。・サツマイモの上下の違い、・発芽と発根のメカニズム など分かっていることを教えていただけないでしょうか。
よろしくお願いいたします。
ono さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
たいへん重要なことに気づかれましたね。ただ、私は「サツマイモを水に入れると片方が沈み片方が浮きます」ということを知りませんでしたので、すぐにマーケットに行ってサツマイモを買ってきて水に入れて調べてみました。水に入れると沈みましたが、「上部」側がいくらか遅く沈むかなといった程度で、すぐに水平に沈みはっきりしませんでした。しかし、サツマイモの乾燥具合なども影響すると思われますので日干ししてから、また試してみます。
さて、ご質問については2つのことが重要です。1つは、植物には上下の軸があり、軸に沿った上下に方向性(これを極性といいます)があること、2つは、サツマイモの「いも」は根(塊根)だと言うことです。Onoさんが気づかれた、「サツマイモ上部から発芽し下部から発根します」ということはこの極性の現れなのです。極性は茎の方が分かりやすいので、茎を例にまずご説明します。1本の植物の茎の最先端(茎頂)から根の先端(根端)までは1本の棒磁石のようになっていると考えてください。N極、S極があるように、生理的極性があります。植物の茎を適当な長さに切って、湿度を保っておくとやがて、茎頂に近かった切り口周辺からは芽(不定芽)が、根側にあった切り口周辺からは根(不定根)がでます。切り取った茎をおく向きはまったく関係なく不定芽が出る側、不定根がでる側は変わりません。1本の切り取った茎を、さらに中央から2本A、Bに切り取ったとします。Aの根端側切り口とBの茎頂側切り口は隣接していましたね。ですから細胞の作り、並び方などはほとんど同じです。でも、Aの根端側切り口からは不定根が、Bの茎頂側切り口からは不定芽がでます。つまり、茎をどんなに短く切っても各切片には極性が保たれているのです。このような性質は挿し木とか挿し枝など栄養増殖に利用されていますね。実は、茎を作っている細胞の1つ1つにも極性があって、1個の細胞でも茎頂側と根端側とでは性質が違います。いつ頃この極性がでてくるかというと、植物の受精卵(1個)がはじめて分裂して2つの細胞になったときすでに、一方の細胞と他方の細胞とでは性質が違って極性が見られます。植物ホルモンの動きが関係していることは確かですが、その仕組みはまだ分かっていません。このような極性は根でも同じですが、根には容易に枝根(側根-根から根がでるのはふつうなので不定根とは言いません。茎から直接でる根を不定根といいます)を出す性質があります。双子葉植物の根は側根を作り、側根にさらに枝根を作ることを繰り返して根系を作り、栄養や水分の吸収面積を大きくしています。切ったサツマイモの上下を逆にして(茎頂側切り口を)水に浸けると、茎頂側から芽と根もでましたね。これはサツマイモの根の性質がでてきたものです。サツマイモをよく見ると表面に少しへこんだ部分が縦に数列並んでいます。根の枝、つまり収穫前の側根の痕で、この部分は側根を作る細胞群が縦に並んでいるのです(ニンジンでもダイコンでも同じで、根から側根がでる位置はきまっています)。この部分に水が十分に与えられると側根を出しますので茎頂側にあった切り口を水に浸けると芽と一緒に根もでてくることになります。重力の方向とは関係ありません。また、このとき芽のでる位置と根のでる位置をよく観察してください。両方は一致していないはずです。
子供さんの学年にもよりますが、低学年では少しむずかしいことになりました。でも、極性(方向性)があって、これが植物の形作りに大切なことを理解していただければ十分だと思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-08-28