一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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カツラの葉序について

質問者:   一般   ジョー
登録番号1766   登録日:2008-08-31
カツラは、図鑑では「対生」となっていますが、中には「互生も混じる」としているものもあります。それはいいのですが、この度、ひこばえの中に「3輪生」のものを発見しました。
その木では、対生、互生、3輪生がすべて混じっていました。また、その枝が近接して存在します。
これは、普通のことでしょうか。森林インストラクター仲間に聞いても適切な返事はありません。

また、普通にありうるとすれば、どのような場合にそれが現れるのでしょうか。
写真は、私のブログ http://forestjo.exblog.jp/ のN0.0368に載せています。
ジョー さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
植物の形態は基本的には遺伝的に決められていますが、遺伝形質の発現が大きく外部環境の影響を受けます。外部環境は植物の内部環境、つまり生理的状態に影響しますので、状況によって違った形質が現れるようです。東京大学の塚谷裕一先生に伺いました。


ジョーさん、
 ご質問ありがとうございます。さすがインストラクターですね。観察の着眼点が鋭いと感じました。
 私自身はカツラでの観察経験はありませんが、同様に互生や対生、3輪生が混在することが知られている植物として、しばしばグリーンベルトや公園の周りなどに植えられているアベリア(ハナゾノツクバネウツギ)があります。このような現象を示す植物は、他にもいくつかあるようです。ですので、ここでは一般論でお答えします。
 最近まで、葉序(茎に葉の付くパターン)がどのようにして決まるのかは、諸説あって決着が付いていませんでした。特に、互生を説明できそうな説は対生や輪生を説明できないなど、互生と対生の違いはかなり大きいように考えられがちでした。
 しかし最近、植物ホルモンの1つであるオーキシンの流れから、葉序を説明する説が登場し、多くの研究者を納得させるようになってきました。この説の強みは、共通のメカニズムのもとで、互生も対生も、また輪生も生み出せる点です。実際、コンピュータシミュレーションを行った研究によると、ほんのちょっとしたパラメータの変化から、さまざまなパターンの葉序を生み出すことができるという結論が得られています。そのパラメータの変化とは、葉を作り出す場であるシュート頂分裂組織(茎頂分裂組織)での細胞増殖のスピードなど、ちょっとした振る舞いの違いです。
 実際、古典的な実験でもこのような考えを示唆するものがあります。つまり、対生葉序を示すアカバナ科の植物について、そのシュート頂分裂組織にメスを差しいれたり、葉原基を切り取ったりすると、安定的な対生であったものが、互生になるという実験結果です。同じことは、ホルトソウなどでも追試がなされたことがあるようです。これも、シュート頂分裂組織での細胞の増え方のバランスが変化した結果と見ることができます。カツラやアベリアは、こうしたシュート頂分裂組織の状態の変化が起きやすいのではないでしょうか。現時点での、葉序の制御に関する理解からすると、そのように解釈されると思います。

塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科・教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-09-04
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