一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

果実を甘くするメカニズム

質問者:   会社員   K
登録番号1772   登録日:2008-09-04
作物の糖度上昇のメカニズムに興味があります。
登録番号1651にイチゴの例で、葉面に糖分を散布することにより、果実の甘味増加に利用されている話が記載されていました。
ご回答は、葉面に散布した糖が直接果実の甘みになっていると断言できないとの内容でしたが、これに関連して、質問致します。

1. 葉面に糖分を散布することは、イチゴ以外の甘みが重視される作物(例えばトマトやメロンなど)で一般的に行なわれていることなのでしょうか?

2. 葉以上に植物の養分吸収源と言えば根ですが、根も糖をダイレクトに吸収できるのでしょうか? できる場合、例えば砂糖水で水耕栽培をすれば、作物は甘くなるのでしょうか?
K-様

お待たせいたしました。質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。ご質問にお答えします。

質問1 葉面に糖分を散布することは、イチゴ以外の甘みが重視される作物(例えばトマトやメロンなど)で一般的に行なわれていることなのでしょうか?

回答:果実の栽培技術については本学会の専門分野からはずれていますので、詳しいことは分かりません。しかし、登録番号1651で回答しましたように甘味料のステビアは園芸作物の生育を改善する目的で現在広く使われており、イチゴの他、トマト、メロンなどの甘みの増加が得れれるようです。ステビア農法などとも呼ばれています。しかし、ステビアはその抗酸化活性を利用するもので、直接甘みの増加をはかるものではありません。ショ糖、ブドウ糖、果糖だけの散布で果実の甘みの増加をはかる栽培法はないと思います。果実は大きく成長しているときは甘くなく、むしろ酸っぱいものが多いです。果実が甘くなるのは成長が終わって熟する(色付く)時です。果実が熟す時には、身が柔らかくなり、香りが増し、赤や黄色などの鮮やかな色素が合成されてきます。柔らかくなるのは果実を作っている細胞の細胞壁が分解されて固さがなくなるからです。この時期果実の細胞ではいろいろな物質が分解されたり合成されたりします。甘みの成分はは炭水化物が分解されて生じるショ糖、ブドウ糖、果糖などです。また、酸っぱい成分の有機酸などは中和されるようになりますから、果実の全体としての甘みに大きく影響することになります。質問2にも関係することですが、成長が終わって果実が熟しはじめる時に、植物体の他の部分からどんどんショ糖などが果実へ輸送されるということは考えにくいことです。

質問2. 葉以上に植物の養分吸収源と言えば根ですが、根も糖をダイレクトに吸収できるのでしょうか? できる場合、例えば砂糖水で水耕栽培をすれば、
作物は甘くなるのでしょうか?

回答:根からは水とそれに解けているミネラル(無機化合物)が吸収されますが、有機酸、アミノ酸、糖など低分子の有機物質も吸収されます。まず、最初に植物における養分供給の一般的なことについて説明しておきましょう。植物は根からミネラルと水さえ供給されれば、光合成産物をもとに体に必要な全ての有機物質を合成することができます。果実の成長だけでなく植物の成長全般にわたって、体を構成している細胞は増殖し、個々の細胞はそれぞれ大きくなり、また特殊化されてきまった役割を持つようになります。そのような過程で必要なことは、様々な物質の合成とそのためのエネルギーの供給です。植物においてはCO<sub>2</sub>と水とから光合成でつくられるブドウ糖がこれらの諸反応の出発点となります。すなわち葉でつくられるブドウ糖は体の成長を続けている他の部分(果実など)へ輸送されてそこで新たな合成やエネルギーの生成のために消費されるのです。しかし、ブドウ糖はそのまま輸送されるのではなく、一般に昼間は一旦デンプンに変えられて(デンプンはブドウ糖分子がたくさん繋がった高分子です)葉の中で貯えられます。そして夜になるとデンプンからブドウ糖とブドウ糖が形を変えた果糖(異性体といいます)が結合したショ糖(私たちが使う砂糖)ができて、ショ糖が輸送されるのです。ふつうは成長が終わってしまった場所へは光合成産物の輸送はおこりません。植物における離れた部位への物質の輸送には二種類の経路あって、一つは根から吸い上げた水を地上部へ送る管で道管と呼ばれます。もう一つは光合成産物が葉から輸送される管で篩管といいます。道管を流れるのは水に溶けた無機物質が主体で、篩管内はショ糖などの有機物質が主です。また、細胞から細胞への物質の移動は管によらず直接おこなわれます。ところで、根から糖などが吸収される場合はやはり道管から入ることになりますが、これらの糖は光合成産物と同じ道をたどることになります。切り花で薄い砂糖液を用いるのは切り花が生きていくために必要なエネルギーを補給してやっていると考えて下さい。だから、水耕でも、適当濃度のを根から供給することは植物の生育を改善することはありうるでしょう。しかし、それが直接果実の中の糖分を増加させることにはなりません。水耕で糖を添加することの問題点はバクテリアの繁殖がおこりやすいということです。そうなれば根はダメージを受けるでしょう。果実はあまり水分の供給がよいと水っぽくなって甘み度が落ちるのがふつうです。トマトなど甘みを増すために、わざとぎりぎりまで乾燥にさらす栽培などをやっているくらいです。水耕だと水分の供給が多すぎて、甘みの強い果実を得るには良い方法ではないように思いまが。。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2012-08-25
植物 Q&A 検索
Facebook注目度ランキング
チェックリスト
前に見たQ&A
入会案内