一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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樹の移植と根の再生

質問者:   その他   松原秀臣
登録番号1775   登録日:2008-09-06
 樹(成木)を移植する時には多くの根を伐って新しい土壌条件の場所に移すことが多いのですが、その後何年も樹が成長を停止することがあります。そこで基本的なことを質問します。
 根を切断した後の細根の再生力は(樹種によって違いますが)、地上部の再生力(萌芽力)に比例するものでしょうか。
 また切断されて細根がなくても短期間なら土壌中の水分を木部から直接吸収して生命を保ち、その間にオーキシンとサイトカイニンを切断面に集中させて新しい細根を発生すると考えています。もっとも移植した先の土壌に腐植性の菌が多い(古い土が多い)場合は細根が成長する前に腐ってしまうものと思ってますが、この認識は間違っているでしょうか。
 
松原秀臣 さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
樹木の移植に伴う現象についてのご質問ですが、残念ながら樹木の成長生理学の研究は少なく、私どもは扱いやすい草本植物や小型の木本を主な研究材料としているため的確なお答えをすることができません。実験植物で明らかになった事柄も「おそらく同じことが言えるだろう」と樹木に適用して「納得してしまう」ことが少なくありませんが、正しい扱いとは思っておりません。やはり、個別に樹木の問題は樹木で調べなければ本当のことは分からないのです。移植後の状況は、移植前の樹木の樹種、樹齢、樹勢などなど多くの要素とそれに適合した事前処理によって大きく変わることは経験的に知られていることです。
「地上部の再生力(萌芽力)」とは主幹を含め剪定したときに腋芽や不定芽が出る力のことを意味していると思います。樹木についての知見ではありませんが、地上部の腋芽の発芽はオーキシン(抑制)とサイトカイニ(促進)で支配されるだけでなく、最近の研究では根から送られる新しいテルペン系ホルモンの働きで抑制されていることが分かっています。一方、側根(細根)の形成部位にはオーキシン蓄積が見られ、側根形成を促進しています。またサイトカイニンは側根形成を抑制するという結果も出されています。地上部はオーキシンと栄養分の供給源ですから、側根の形成には地上部が必要と思えますが、実際には、切り取った根の切片でも側根は形成されます。切り取った根には必要なオーキシンも栄養分も含まれていますので短期間におこる側根形成、初期成長がおこるからです。また、切り取るという傷害を与えることで側根形成が促進される場合もあります。これらの結果を見ると、地上部の萌芽力と側根の再生力との間にははっきりとした相関関係があるとは言えないと思います。樹木移植時の側根の形成、成長に対する地上部の働きは、単に植物ホルモンや栄養分供給ばかりでなく水分状態にも影響するものです。実際に、移植前に地上部を強く剪定する場合が多くありますが、これは側根の再生、成長時に過剰の水分損失を防ぐためともいわれています。実際の局面と研究結果との間にはまだかなりの距離があるのです。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-09-17
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