質問者:
公務員
ならのこ
登録番号1776
登録日:2008-09-07
お世話になります。いつもみんなのひろばページを興味深く拝読しております。みんなのひろば
フモトミズナラとは何者か(コナラ属にまつわる三つの疑問)
北関東や東海地方に分布するコナラ属の一つに、低地に生えるミズナラ様個体で最近「フモトミズナラ」と命名された分類群があります(それまでは「モンゴリナラ」と呼ばれていました)。なるほど確かに葉の形(葉柄が殆ど無く、葉は大きい)といい、堅果の形(大型)といい、ミズナラに似ていて、フモトミズナラという名前は納得できます。が、ここで数点疑問が生じましたので、ぜひお教え頂けないでしょうか。可能であれば、専門家のご意見を伺えると幸いです。
①大場秀章ら「Flora of Japan Ⅱa」(2006)の中で、フモトミズナラという新しい名前がつけられましたが、分類上は、コナラの亜種に分類され、学名はQuercus serrata subsp. mongolicoidesとされています。何故、「フモト『ミズナラ』」なのに、ミズナラの亜種ではなく、コナラの亜種なのでしょうか。みんなが疑問に思っている様です…。
②コナラとミズナラ・フモトミズナラの形態的違いに「葉柄があるかほぼ無いか」というポイントがありますが、両者にどうしてこの様な違いが生じたと考えられるでしょうか。葉柄の意義(メリット)とデメリットを教えて下さい。
③フモトミズナラの樹皮は、ミズナラの様なぱりぱり剥がれた白っぽいものより、コナラの樹皮に似ている様に見えます。こうした樹皮模様や樹皮色は、適応進化上、何らかの意義を持つのでしょうか。それとも中立的形質が、偶然の重なりによって進化した(例:遺伝的浮動)と考えるべきでしょうか。
色々考えたのですが、どうしても分からないため、専門家のご意見を是非伺いたいと思います。何とぞよろしくお願いいたします。
ならのこ様
長い間お待たせしました。下記ご質問について東北大学植物園の鈴木三男園長のご紹介により、同園の米倉浩司博士に回答いただきました。
[回答]
フモトミズナラ Quercus serrata Murray subsp. mongolicoides H.Ohbaについて
疑問点1について。日本産の種だけを見る限り,問題の種は明らかにミズナラに似ており,コナラとは一見して区別できるように見えますので,このような疑問が生じるのはもっともなことと思われます。しかし,ミズナラとコナラの区別点として日本で用いられる「葉柄の長さの違い」は実は国外ではあまり使えません。というのは,台湾や中国中南部では,コナラの葉柄が短く3-4mm程度しかない(タイワンコナラvar. brevipetiolata (A.DC.) Nakaiと名付けられています)からです。これらの地方にはミズナラやモンゴリナラは分布しないのでミズナラとの比較をする必要はないのですが,この点を考えると,いくらフモトミズナラがミズナラに似ているからといっても,単純にミズナラの種内分類群とすることに疑問が出てきます。和名は日本だけで通用するものですので日本産の既知種との外見的類似だけで(この場合はミズナラに似ていて暖温帯の山麓に生えることによると思われます)つけられますが,学名は世界的視野で名付けなければなりません。Flora of Japan Iiaの大場先生の原記載文にも引用されている菅野氏らの論文(植雑に出ています)では,フモトミズナラはミズナラよりもコナラに遺伝的に近いことが書かれています。もちろん,これを周辺に普通にあるコナラからの遺伝子浸透の結果とみなすことも十分に可能ですが,大場先生はこのデータに触発されて,また葉以外の形質や生態的特徴などを総合的に判断した結果として,フモトミズナラをコナラの亜種として記載されたものと私は推測しています。
疑問点2について。葉柄のメリットとデメリット。これは難しい問題です。私は専門家ではないのであまりわからないのですが,1つには光を受ける効率に 関係しているのではないかと考えています。また,前にも書きましたが,コナラでも葉柄のごく短いものが国外にはあります。
疑問点3について。樹皮の表面の状態は,コナラ属の場合,樹皮のコルク質の厚さによってある程度決まってくるのではないかと思われます。ただ,これの 適応的意義となると,カミキリムシに対する防御とかいろいろ考えられますが,私はあまりはっきりしたことはわかりません。
米倉 浩司(東北大学植物園)
長い間お待たせしました。下記ご質問について東北大学植物園の鈴木三男園長のご紹介により、同園の米倉浩司博士に回答いただきました。
[回答]
フモトミズナラ Quercus serrata Murray subsp. mongolicoides H.Ohbaについて
疑問点1について。日本産の種だけを見る限り,問題の種は明らかにミズナラに似ており,コナラとは一見して区別できるように見えますので,このような疑問が生じるのはもっともなことと思われます。しかし,ミズナラとコナラの区別点として日本で用いられる「葉柄の長さの違い」は実は国外ではあまり使えません。というのは,台湾や中国中南部では,コナラの葉柄が短く3-4mm程度しかない(タイワンコナラvar. brevipetiolata (A.DC.) Nakaiと名付けられています)からです。これらの地方にはミズナラやモンゴリナラは分布しないのでミズナラとの比較をする必要はないのですが,この点を考えると,いくらフモトミズナラがミズナラに似ているからといっても,単純にミズナラの種内分類群とすることに疑問が出てきます。和名は日本だけで通用するものですので日本産の既知種との外見的類似だけで(この場合はミズナラに似ていて暖温帯の山麓に生えることによると思われます)つけられますが,学名は世界的視野で名付けなければなりません。Flora of Japan Iiaの大場先生の原記載文にも引用されている菅野氏らの論文(植雑に出ています)では,フモトミズナラはミズナラよりもコナラに遺伝的に近いことが書かれています。もちろん,これを周辺に普通にあるコナラからの遺伝子浸透の結果とみなすことも十分に可能ですが,大場先生はこのデータに触発されて,また葉以外の形質や生態的特徴などを総合的に判断した結果として,フモトミズナラをコナラの亜種として記載されたものと私は推測しています。
疑問点2について。葉柄のメリットとデメリット。これは難しい問題です。私は専門家ではないのであまりわからないのですが,1つには光を受ける効率に 関係しているのではないかと考えています。また,前にも書きましたが,コナラでも葉柄のごく短いものが国外にはあります。
疑問点3について。樹皮の表面の状態は,コナラ属の場合,樹皮のコルク質の厚さによってある程度決まってくるのではないかと思われます。ただ,これの 適応的意義となると,カミキリムシに対する防御とかいろいろ考えられますが,私はあまりはっきりしたことはわかりません。
米倉 浩司(東北大学植物園)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2008-11-17
勝見 允行
回答日:2008-11-17