質問者:
教員
H.W
登録番号1791
登録日:2008-09-24
はじめまして。よろしくお願いいたします。重複受精について疑問が生じ,色々調べたのですがよくわかりませんでした。3点質問いたします。みんなのひろば
重複受精の理由について
1.裸子植物の胚乳は受精せずnのままで,母性(体細胞)遺伝になると思いますが,被子植物は受精して3nになり遺伝子の組みかえが起こります。胚乳は消費され無くなってしまうのに,なぜわざわざ受精してしかも雄性の遺伝子の形質をその世代で発現させるのでしょうか。その利点をお教え下さい。
2.裸子植物と被子植物の受精様式にはかなり隔たりがあります。その中間的な生物はいないのでしょうか。(胚珠は子房で包まれているが,胚乳は受精せず胚のみ受精するようなタイプなど。)
3.被子植物の形態は幅広く(例,カキ,イネ,ユリ,キク)全て同じ仲間で重複受精していると信じがたい面があります。重複受精に関してこの複雑なシステムは進化のかなり初期に獲得された後,適応放散したと想像します。被子植物の中で最も原始的なタイプはどの種になるのでしょうか。
以上3点です。
高校の授業に於いて重複受精はなかなか教えにくい範囲です。教科書を記憶させるだけでは,何とも味気ないものになってしまいます。授業の材料として考えた際,被子植物が進化し重複受精になった故,生存競争に有利になり適応放散したと教えたいのですが,いまひとつ自分自身根本的な部分が理解できていません。
お手数をおかけいたします。よろしくお願いいたします。
H.W 様
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。回答が遅くなってしまったようで、大変お待たせしました。ところで、この質問は進化の問題でもありますので、当該専門研究分野ではどんな研究が現在進行しているのか詳しくはわかりません。いま私が理解している範囲でお答えします。3つの質問がありますが、相互に関連していますのでまとめて説明します。
まず、生物の形態、生活様式、生殖様式などなどはその種が生息(生育)する場所で、個体維持、子孫繁栄に最も有利なように進化してきたと考えてよいでしょう。だから現在の形態、生活様式、生殖様式などは適応の結果であると考えられます。
したがって、重複受精は適応の見地から説明できるはずです。植物における生殖過程の様式は次世代の子孫のための種子をいかに早く完成させるかというストラテジーとしてとらえることもできます。この点から、胚乳が3倍体であることは倍数体強勢と考えられ、より多量のタンパク質合成ができる(より多くのmRNA が作られるので)ことで胚の早い成長を助長できる手段だと説明する学者もいます。しかし、ご質問のようにではなぜ2m:1p(m:maternal; p : paternal) であることがそのために有利なのかということは説明できません。重複受精という現象は被子植物特有ではなく、被子植物に最も近い祖先と考えらているGnetales (グネツムの仲間)の中のEphedra属やGnetum属では重複受精がみられます。しかし、これらの非被子植物では二回目の受精の結果、2倍体の遺伝的には正常胚と同じ胚を生じますが、発達しないで消滅します。進化の初期には不定数の胚が生じたという仮説もあります。
Ephedera や Gnetumでは受精後、胚乳ではなくて雌性配偶組織が胚を養生することになります。
顕花植物の祖先では雌性配偶体が胚への養分供給をおこなう栄養貯蔵組織でした。したがって、裸子植物には胚乳はなく雌性配偶組織それ自体が胚乳と同じ役割をしていました。胚乳組織の出現は被子植物出現と同義であると考えてもよいでしょう。
胚乳組織の進化を考える時、二つの観点から論じなければなりません。1.胚の養生組織としてなぜ胚乳が出現して雌性配偶体に取って替ったか。2.なぜ3倍体(2m: 1p)の遺伝子組成が選ばれるようになったのか。顕花植物系列の初期の植物では2倍体の胚乳が一般的であったようです。例えば、Nuphar polysepalum (スイレン科)では2倍体の胚乳がみつかっています。したがって、胚乳は1m:1pというタイプがまず現れ、それが2m:1p というタイプに替っていったと考えてよいでしょう。では、1と2の疑問にどのように答えたら良いのでしょうか。残念ながらまだ分からないことが多すぎます。いくつかの仮説や議論はありますが、いずれも実質的証拠はないようです。こういう議論もあります。
もし、胚(子供に相当する)の発達にたいして両親(雄:雌)の投資の程度(貢献度)が一様でないとしたら、遺伝子組成が異なる胚の発達に関係する全ての組織の間で競争あるいは相克があると考えられます。発達中の胚がどのような養分を蓄えるかは雌性配偶組織、胚乳および胚自体によって決められることです。こういう立場から、雌性と雄性とでどちらの支配が強くなるほうが種子形成に有利かといことで説明できるという考えと、両親と子供との間での争いだという考えもあります。
いずれにしても、被子植物の起原については、確証となるような研究はまだ出来上がっておらず、現在細胞学的、分子遺伝学的研究が各所ですすめられていますので、そのうち納得のいく解明がなされるものと思います。
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。回答が遅くなってしまったようで、大変お待たせしました。ところで、この質問は進化の問題でもありますので、当該専門研究分野ではどんな研究が現在進行しているのか詳しくはわかりません。いま私が理解している範囲でお答えします。3つの質問がありますが、相互に関連していますのでまとめて説明します。
まず、生物の形態、生活様式、生殖様式などなどはその種が生息(生育)する場所で、個体維持、子孫繁栄に最も有利なように進化してきたと考えてよいでしょう。だから現在の形態、生活様式、生殖様式などは適応の結果であると考えられます。
したがって、重複受精は適応の見地から説明できるはずです。植物における生殖過程の様式は次世代の子孫のための種子をいかに早く完成させるかというストラテジーとしてとらえることもできます。この点から、胚乳が3倍体であることは倍数体強勢と考えられ、より多量のタンパク質合成ができる(より多くのmRNA が作られるので)ことで胚の早い成長を助長できる手段だと説明する学者もいます。しかし、ご質問のようにではなぜ2m:1p(m:maternal; p : paternal) であることがそのために有利なのかということは説明できません。重複受精という現象は被子植物特有ではなく、被子植物に最も近い祖先と考えらているGnetales (グネツムの仲間)の中のEphedra属やGnetum属では重複受精がみられます。しかし、これらの非被子植物では二回目の受精の結果、2倍体の遺伝的には正常胚と同じ胚を生じますが、発達しないで消滅します。進化の初期には不定数の胚が生じたという仮説もあります。
Ephedera や Gnetumでは受精後、胚乳ではなくて雌性配偶組織が胚を養生することになります。
顕花植物の祖先では雌性配偶体が胚への養分供給をおこなう栄養貯蔵組織でした。したがって、裸子植物には胚乳はなく雌性配偶組織それ自体が胚乳と同じ役割をしていました。胚乳組織の出現は被子植物出現と同義であると考えてもよいでしょう。
胚乳組織の進化を考える時、二つの観点から論じなければなりません。1.胚の養生組織としてなぜ胚乳が出現して雌性配偶体に取って替ったか。2.なぜ3倍体(2m: 1p)の遺伝子組成が選ばれるようになったのか。顕花植物系列の初期の植物では2倍体の胚乳が一般的であったようです。例えば、Nuphar polysepalum (スイレン科)では2倍体の胚乳がみつかっています。したがって、胚乳は1m:1pというタイプがまず現れ、それが2m:1p というタイプに替っていったと考えてよいでしょう。では、1と2の疑問にどのように答えたら良いのでしょうか。残念ながらまだ分からないことが多すぎます。いくつかの仮説や議論はありますが、いずれも実質的証拠はないようです。こういう議論もあります。
もし、胚(子供に相当する)の発達にたいして両親(雄:雌)の投資の程度(貢献度)が一様でないとしたら、遺伝子組成が異なる胚の発達に関係する全ての組織の間で競争あるいは相克があると考えられます。発達中の胚がどのような養分を蓄えるかは雌性配偶組織、胚乳および胚自体によって決められることです。こういう立場から、雌性と雄性とでどちらの支配が強くなるほうが種子形成に有利かといことで説明できるという考えと、両親と子供との間での争いだという考えもあります。
いずれにしても、被子植物の起原については、確証となるような研究はまだ出来上がっておらず、現在細胞学的、分子遺伝学的研究が各所ですすめられていますので、そのうち納得のいく解明がなされるものと思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2008-10-07
勝見 允行
回答日:2008-10-07