一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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花粉管の伸長

質問者:   高校生   嵐
登録番号1793   登録日:2008-09-25
花粉管の伸長についての実験後のレポートを書いている途中で気になることがありました。

浸透圧との関係で伸長する。
膨圧が発生して花粉管の薄い膜が原形質に押されて伸長する。

柱頭は花粉管からしてみればとても硬いものだと思います。
花粉管が柱頭を突き進むためになにか仕組みがあるのでしょうか。

もうひとつお願いします。

スクロースは浸透圧の調整のためと書いてありましたが、
養分としての意味はありませんか?
あるのなら、どのように働くのか教えてください。

よろしくお願いします。
嵐 さん

このコーナーに質問をお寄せ下さりありがとうございます。お答えするのが少し遅れましたが、名古屋大学の東山哲也先生が回答を用意して下さいました。ご参考にして下さい。なお、本コーナーには関連する質問と回答が幾つか掲載されておりますので、そちらの方もご参考にして下さい。


(東山先生からの回答)
花粉管は、柱頭の細胞(乳頭細胞)の細胞壁の中や、細胞と細胞の間を伸びます。乳頭細胞が長いタイプの植物に花粉を受粉し、顕微鏡で観察し続けると、花粉管が細胞壁の中を伸長していく様子が見られます。こういった観察から推測する限りでは、花粉管が柱頭を通過するためには、細胞壁や細胞を押し広げながら進む力と、細胞壁成分を分解するような因子の、両方が必要に見えます。ただし、こうした力や因子に関する具体的な研究はないと思います。花粉管の発する力ですが、ガラス針に胚珠を突き刺して花粉管を誘引させると、胚珠を押すような挙動が見られます。ある程度の力を発しているかも知れませんので、測定してみると面白いかも知れませんね。柱頭の細胞はたしかに顕微鏡で観察すると硬そうに見えますが、顕微鏡で見ながらガラス針で触ると、意外と“しなやか”な構造であることがわかります。

またスクロースについてですが、たしかに一般的には浸透圧調整のためと言われます。スクロースが花粉管に取り込まれて養分として働くかどうかについては、何十年か前に議論になり、意見が分かれました。現在でもはっきりしていません。もし働くとすれば、エネルギー源や、糖代謝の基質などとして働く可能性があると思います。

このスクロースに関する疑問については、最近、名古屋市立向陽高等学校が「花粉管伸長のしくみ」という研究を行いました。この研究は、平成20年度スーパーサイエンスハイスクール生徒研究発表会にて、科学技術振興機構理事長賞も受賞しました(http://www.jst.go.jp/report/2008/080813.html )。来年の3月下旬に開催される日本植物生理学会年会(名古屋)において、是非お話を伺う機会を設けたいと考えております。可能でしたら、同じ高校生がどのようにこの問題に取り組んだか、聞きにきていただければと思います。詳しくは、来月ぐらいまでに年会ホームページ(http://www.jspp.org/nagoya/)で、ご案内致します。

東山 哲也(名古屋大学大学院理学研究科・生命理学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2008-10-07