一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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冬季における道管の凍結と落葉について

質問者:   教員   千田 修平
登録番号1804   登録日:2008-10-03
高校で専門外の生物分野を教えています。道管・師管について調べていたところ、「新生物」小林 弘 著 数研出版社の参考書に
 「(2)凍結と水柱の切断 冬になって水が凍ると、水に溶けていた気体が遊離し気泡ができる。やがて、気泡が集まって大きくなり、水柱を切る。(図)水は切れたところから落下し、この道管は永久に働きを失う。そのために寒地の広葉樹は前もって落葉する。」
「(4)高山や寒地の針葉樹 高山の頂上付近や、亜寒帯のには針葉樹が多い。針葉樹(裸子植物)の水の通路は仮道管で、これには隔壁が残っている。発生した気泡は隔壁にたまり、気泡が集まって大きくなることはないので、水中を切らない。春になると、気泡も吸収され水が通う。」
とありました。
 上記(4)の説明は理解できるのですが、(2)広葉樹は落葉することにより、道管に生じる、気泡による水柱切断を回避しているという内容ですが、なぜ落葉により発生した気泡が道管内の水柱を切らないのか分かりません。水中が凍るならば、葉が落ちてもいずれは道管のどこかにはこの切断が生じ、道管がその働きを失うと思うのです。是非、説明お願いいたします。
千田 修平様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。質問にある疑問点、すなわち「そのために寒地の広葉樹は前もって落葉する。」は私にも疑問です。多分舌足らずの記述なんでしょう。教科書関係の記載内容に不明な点があるときは、その本の出版社の編集部に問い合わせるのが一番です。そこから著者に回答を求めてくれます。
もうすでに、理解されているとはおもいますが、導管の凍結と水の通導について説明します。 寒冷地に生育する樹木は気温の零度以下への低下によって、導管内および細胞壁の自由間隙(free space)にある水分は凍結します。春になってこの氷が融解すると、氷の中に閉じ込められていた気体は小さい泡となって放出されますが、もし新葉ができていて蒸散が始まっていると、導管内の水柱に大きな張力がかかります。その結果小さい気泡は集まって大きくなり水柱をブロックしてしまうことになります。そうなると、地上部への水分供給はできなくなり、葉は枯れてしまうことになります。そこで、このよう寒冷地の樹木ではそれを回避する手段として、春に新葉が形成される前に、新しい導管がつくられて前年使われていた導管に置き換わります。また、巨木でなければ春になると根が能動的吸水を始め、根圧が上昇して水柱を押し上げ、気泡の気体をもう一度水に溶かしてしまうことにより、水の通導を可能にします。水柱中の気体が気泡となって放出されるのは水柱に高い張力がかかるときです。つまり、盛んな蒸散が行われている時です。従って葉を取り除くと張力がなくなり、水の移動は止んで気泡も少なくなります。
また、夜間蒸散のないときは気泡も少なくなります。寒冷地の樹木は温暖なところより早く(前もって)落葉するのは、気温の低下が早いだけのことであって、そのため(つまり、春になって氷が溶けて気泡ができるのを防ぐため)だというのは不思議ですね。ぜひ著者に聞いてみて下さい。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2008-10-16
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