一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

コナラの心材の着色のしかたについて

質問者:   一般   daborinn
登録番号1807   登録日:2008-10-08
先日、樹齢が30年ほどのコナラの年輪を観察する機会がありました。

その切り口は、中心に茶色い部分があり、年輪とは別に(時に年輪とはクロスする形で)輪じみのような層になっていました。

心材の部分の細胞壁にはリグニンや色素が沈着し、細胞内部にも油脂や樹脂、タンニンなどを含むことが多く、複雑に着色することが多いということが、調べた本に書かれていましたが、このような物質がどのような道筋でいつの段階で運ばれてくるのか、また、なぜ年輪とは別の同心円状の層になっているのでしょうか。教えてください。
daborinn さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
樹木の心材は樹種によって特徴的な着色をしていることから分かるように着色成分は樹種によって違っています。いろいろなフェノール性物質が酸化されたり、重合したりして有色物質、抗菌性物質などが合成、蓄積しているのが心材です。また、テルペンの仲間が蓄積する場合もあります。これらは心材化が始まった生きた細胞で光合成産物を原料として合成されるものです。コナラなど広葉樹での研究は少なく、多くの研究はスギなどで行われていますのでそれらを参考にして、一般的な心材形成の過程を考えてみます。樹木の茎は、二次成長が活発におこるので肥大(太くなる)成長をしますが、茎を巡り環状にある形成層が細胞分裂をして、内側(茎の中心方向)に向かっては木部組織を、外側に向かっては篩部組織を作り続けるからです。細胞分裂や細胞成長などの生物活性は温度によって大きく変わりますので、春から初夏にかけては活発な細胞分裂、活発な細胞成長で大きく、細胞壁の薄い細胞からなる密度の小さな木部組織(早材、春材)が幅広く形成されますが、晩夏から秋にかけては、分裂や成長が遅くなって、小さく、細胞壁の厚い細胞が出来て、密度の大きい木部組織(晩材、夏材)が幅狭く形成されます。この木部組織の1年におこる粗密の違いが年輪となることはご存じの通りです。年輪は茎の肥大成長の経過時間の軌跡とも言えます。一方、形成された木部組織の活動を見ますと、茎が成長を続ける間に、茎の中央部にある古い木部は次第に成熟し、各種のフェノール物質を素材として色素やその他の心材成分を合成蓄積します。しかし、これらの生物活性を維持していた柔細胞もやがて死滅し、リグニン化の進行した導管も管としての通導性も失われて、丈夫な心材となります。心材の外側にある辺材には生きている柔組織や通導性の高い木部があります。辺材と心材の境界にある組織は水分含量が低いことが分かっていますが、これらが次第に時間とともに心材化していきますので、茎の成長とともに心材部分も太くなっていきます。心材化がはじまる細胞群や心材化進行の速さは、細胞齢だけでなく生理的条件でも影響をうけますので、時間経過だけを反映する年輪とは必ずしも一致しません。また、心材化がはじまる部分は年齢順とは限りません。そのため、心材の輪郭は年輪とクロスすることも、年齢のより若い細胞群がより内側にある年齢の古い細胞群よりも早く心材化がはじまることもあり得ます。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-10-16
植物 Q&A 検索
Facebook注目度ランキング
チェックリスト
前に見たQ&A
入会案内