一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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原形質流動速度について

質問者:   高校生   圭
登録番号1811   登録日:2008-10-13
オオカナダモの原形質流動を観察しました。しかし、若い細胞(茎頂部分)と成長した細胞(茎頂から5cmほど離れた部分)では、原形質流動速度が異なりました。どうして、速度の違いができるのでしょうか?
圭様

日本植物生理学会 みんなのひろば 質問コーナーをご利用頂きどうも有り難うございました。
ご質問に対して、専門家である神戸大学大学院の三村徹郎先生と大阪大学大学院の高木慎吾先生より以下の回答を頂きました。


回答

詳しく観察していますね。「どうして速度に違いがでるのか」という質問は、二つの側面に分けて考えることができます。「どのような仕組みで速度に違いがでるのか」と「速度に違いがでることにどのような意義があるのか」です。前者を How question、後者を Why question と呼びます。一般に、How question の方が答えるのは容易です。今回も、まずそちらの側面から回答します。
植物の原形質流動は、動物の筋肉運動をひき起こすのと同じ種類のタンパク質の働きによって起こることがわかっています。流動速度の違いは、これらのタンパク質の活性、特に、ATPを加水分解する酵素であるミオシンの活性の違いによってもたらされます。また、これらのタンパク質の活性が同じであっても、流れる細胞質の状態(たとえば粘性)が違えば速度も違ってくるだろうことは、直感的にイメージしてもらえると思います。若い細胞の細胞質の粘性が古い細胞のものより高いという報告もあります。
次に、答えるのがより難しく、また、証明も難しい Why question ですが、一つの可能性として、細胞が大きくなるにつれ、細胞内での物質運搬速度を大きくする必要があるのかもしれません。物質が拡散だけによって移動する時、移動距離の二乗に比例して時間がかかります(これは物理法則です)。
植物の茎や根の細胞は、成長に従って長さがゆうに10倍以上になりますので、端から端まで拡散だけで移動すると100倍以上時間がかかることになってしまいます。そのため、巨大な細胞ほど、より速度の大きな原形質流動を行なうのではないかという考え方です。
最後に、オオカナダモでは、暗いところで不活発だった原形質流動が、顕微鏡観察するうち、光によって活発化するのを見ることができます。このような、環境からの刺激によってひき起こされる原形質流動を二次流動と呼びます。これに対して、常に起こっているタイプの原形質流動を一次流動と呼びます。二次流動の場合、光の刺激を受け始めてから流動速度が最大に達するまでにかかる時間、すなわち細胞の応答性が、細胞の種類や若さなどによって異なる可能性が考えられます。流動速度が違うのは、そのような細胞の性質や状態の違いを見ているためかもしれません。若い細胞(茎頂部分)と成長した細胞で、それぞれ原形質流動の誘導条件などを色々変えて調べると、新しいことがわかるかもしれません。挑戦してみて下さい。

三村 徹郎/高木 慎吾(神戸大学大学院/大阪大学大学院)
日本植物生理学会 広報委員長
徳富 哲
回答日:2008-10-22
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