一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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双子葉植物における上方から下方への物質・情報移動について

質問者:   会社員   山下
登録番号0182   登録日:2004-12-19
よろしくおねがいします。

維管束を利用した水や光合成産物の移動については教科書で詳細に説明されていますが、その多くは下方から上方であり、その逆である上方から下方への物質移動や情報伝達に関しては余り見かけないように思います。

そこで質問です。

・植物ホルモンや農薬等生理活性物質の下方への移動とその機構
・上位葉から下位葉への外部情報(光・ストレス応答等)伝達の機構

テーマが大きくて恐縮ですが、この2点につきましてご解説をお願いいたします。
このような現象を解説している教科書や論文等和文英文問わずあわせてご教授いただけると幸いです。
山下さま

 良く知られているように、根から吸収された水や栄養塩は、導管の蒸散流にのって地下部から地上部に輸送されるのに対して、地上部で合成された光合成産物の多くは師管によって地上部から地下部に輸送されます。その点で、光合成産物の輸送は、単に下方から上方ではなく、むしろ上方から下方の方が優勢とも考えられます。
 葉に人為的に与えた窒素やリンなどの栄養塩が、師管により根に輸送されることも良く知られた事実です。これも下方への物質輸送の一つと考えることができます。農薬が同様に師管によって下方輸送されるかどうかは残念ながら知りませんが、可能性は十分にあると思われます。師管内部の物質組成を調べた研究では、複数の植物ホルモンが見出されていますから、それらも下方輸送されていることは想像に難くありません。
 さらに、物質によっては師部のみを通わけではなく、植物ホルモンの一種オーキシンの下向きの極性輸送は、オーキシン輸送体が細胞膜の特定部分に方向性を持って発現するため維持されていることが証明されています。

 オジギソウの葉の運動を引き起こす刺激情報は、葉の先端に触ると茎に向かって下向きに、また茎の上部に与えた刺激が下方に伝わることが知られています。この刺激伝達機構についてはまだ不明のことが多いのですが、一部は電気的興奮の伝達によるものとされています。
 地上部に光刺激を与えると、それに応じて師管内のタンパク質組成が変動したり、リン酸化されるという研究もありますから、それらが何らかの情報伝達に機能している可能性は高いと思いますが、まだ十分に解析されているわけではありません。

 こうして、師管の多くは下方から上方と、上方から下方への両方向の物質、情報輸送を担っていると思われます。ただし、現在まで、一つの師管が両方向の輸送に機能するという報告は無いと思います。従って、師管によって異なる方向の輸送を行っているということだろうと思われます。どのようにしてそれぞれの師管の輸送方向性が決められているかは不明です。

 テイツ、ザイガー「植物生理学 第3版」(培風館)などを参照していただければ幸いです。
神戸大学
 三村 徹郎
回答日:2008-08-07
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