一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物組織への糖分、塩分の浸透について

質問者:   会社員   ぎじゅつしゃ
登録番号1820   登録日:2008-10-23
はじめまして。
私は食品に関連した仕事をしているのですが、
調理時に植物の性質が関連しているのではないかと思い質問させて頂きました。

まず、植物細胞が生きている場合であれば、
受動的、能動的輸送により塩類や糖分などを周辺環境から細胞内に吸収していくのだと思いますが、
細胞の死滅後にもそういった現象が生じるものなのでしょうか。

具体的な例で言いますと、一般的な煮物などの調理時に植物体内に塩類や糖分などの調味料が浸透していくことは、どういった現象が関連しているのかという事なのです。

調べてみた範囲では、細胞のペクチン質等が加熱により軟化、崩壊する事で、
組織全体が細胞レベルで崩壊し、隙間ができる事で、
その隙間に周囲の水分と共に塩分などが浸透していくのかなと思ったのです。

調理科学に近い内容であり、生きた植物の事ではないので、
こちらで教えて頂くのは難しいかと思いますが、植物組織の性質からなにか
分かりましたら教えて頂けますでしょうか。

よろしくお願い致します。
ぎじゅつしゃ さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ご指摘のようにご質問は調理科学に関するもので、生きた植物の生活や形作りを専門としているこのコーナーではお答えすることが出来ない部分がありますが、私どもで分かる範囲でお答えします。調理に使う植物素材は、はじめは生きている細胞の集まりです。切ったとしても、切り口にある、全体としてはわずかな細胞が死ぬだけでほとんどは生きています。生きている細胞は、いきるために糖分や塩分を吸収したり排出したりしています。このときには、糖分や塩分は細胞の外側にある細胞膜という膜を通過しなければなりませんが、細胞膜にはそれらを通過させるための特別のポンプや通り道(チャンネル)があり、エネルギーを使って吸収、排出をしています。根で吸収された塩類、葉が光合成でつくった糖類やそれから変化したアミノ酸類は植物体の細胞から細胞へと移動して各部分に分配されます。それらの濃度は平均するとショ糖だけであれば4.5%相当以下、食塩だけであれば0.8%相当以下ですが、実際には糖、塩以外にアミノ酸などたくさんの物質がありますので、それぞれはもっと低い濃度となっています。ところが、調理に使う糖や塩の濃度はこれらよりもかなり高いはずです。生きている細胞の外側にこのような高い濃度の糖や塩があると細胞内の水は外に排出されてしまいます。葉菜や短冊に切ったダイコンなどに塩をまぶしたり砂糖を加えたりすると「しんなり」するのはこのためです。しかし、この状態が続くと細胞は死んでしまいます。細胞が死ぬと、細胞膜にあるポンプやチャンネルも働かなくなって物質の透過に制限がなくなりますので、物質は濃度に依存して移動するようになります。煮物などのように加熱しても細胞は死にますから、糖分、塩分は濃度にしたがってしみこんで行くことになります。もちろん細胞は死んで細胞膜の働きはなくなっても細胞膜という膜は残っていますので、物質の種類によって死んだ細胞膜を通る「通り易さ」は違います。加熱によってこの物質移動は加速されますし、ペクチンのように細胞壁成分で溶けだすものもあって細胞壁の性質も変わり物質の浸透はしやすくなるはずです。
実際の調理では、食塩、砂糖、酢などをいつ素材に加えるかなどが食感に大きな違いをおこしますが、植物素材であれば、細胞壁の性質変化、タンパク質の変性状態、デンプン粒の変化などの違いが食感に大きな影響をしていると思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-10-28
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