一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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葉脈の先端について

質問者:   一般   plant
登録番号1835   登録日:2008-11-06
葉の観察をしていると、植物の種類ごとに様々な葉脈のパターンがあることに気づかされます。日に透かしてルーペで見てみると、細かく網状になっている様子などが見え、素朴に美しいと感じることも多いのですが、その葉脈の最も先端の部分はどうなっているのか、以前から気になっております。

①葉脈がどんどん枝分かれし細くなっていきますが、その中の導管と篩管は、先端では、最終的にはどのくらいのスケールまで細かくなるものなのでしょうか?(葉の細胞一つ一つに接するまで細かくなるのでしょうか?あるいは少数の細胞集団を取り巻く程度のスケールの構造を作っているのでしょうか?)

②葉脈中の導管と篩管は、その最先端部まで、同じパターンで張り巡らされているのでしょうか?それとも先端部では多少走行パターンに違いがあるのでしょうか?

③(①で、細胞一つ一つに接するほど葉脈は細かくならない場合)導管からの水分供給は、導管からその周囲への拡散という形で行われるのでしょうか?細胞からの光合成産物は、どのような方法で、篩管に運ばれるのでしょうか?

質問が複数になってしまい、申し訳ありません。長文で失礼致しました。
どうぞ宜しくお願い致します。
Plant 様

質問コーナーへようこそ。ご来場歓迎します。一般の方が植物のanatomyとmechanism についてかなり専門的知識をもち、関心を抱いて下さるのは喜ばしいことです。遅くなりましたが、以下のご質問に回答します。

[タイトル]
葉脈の先端について

[質問内容]
葉の観察をしていると、植物の種類ごとに様々な葉脈のパターンがあること に気づかされます。日に透かしてルーペで見てみると、細かく網状になっている様子などが見え、素朴に美しいと感じることも多いのですが、その葉脈の最も先端の部分はどうなっているのか、以前から気になっております。
①葉脈がどんどん枝分かれし細くなっていきますが、その中の導管と篩管は、先端では、最終的にはどのくらいのスケールまで細かくなるものなのでしょうか?(葉の細胞一つ一つに接するまで細かくなるのでしょうか?あるいは少数の細胞集団を取り巻く程度のスケールの構造を作っているのでしょうか?)
②葉脈中の導管と篩管は、その最先端部まで、同じパターンで張り巡らされているのでしょうか?それとも先端部では多少走行パターンに違いがあるのでしょうか?

[回答]
 葉脈はいわば二本の導線を封入した電気コードのようなもので、導管と篩管が維管束鞘という細胞層で囲われています。内部には柔細胞などほかの細胞もあります。葉脈の維管束は葉肉組織の隅々まではり巡らされ、導管はどの葉肉細胞にも近接しています。ダイズの葉での電子顕微鏡観察によると0.5mm以内の範囲で接触しています。植物の構造は個々の種によって様々ですから、いろいろ違いはあるかもしれませんが、導管だけあるいは篩管だけが維管束からはずれて特に隅々まで伸びているということはないと思います。


③1)で、細胞一つ一つに接するほど葉脈は細かくならない場合)導管からの水分供給は、導管からその周囲への拡散という形で行われるのでしょうか?細胞からの光合成産物は、どのような方法で、篩管に運ばれるのでしょうか?
質問が複数になってしまい、申し訳ありません。長文で失礼致しました。

[回答]
葉脈の木部導管から水は拡散で葉肉細胞の細胞壁に移動します。細胞壁はセルロー繊維を主とする多糖類で構成されていて、これらの分子の隙間はいわば極微小毛細管のようなものです。葉肉細胞は葉肉組織で細胞間隙によって空気と接触していますから、水は直接葉肉細胞から蒸発します。それにより生じる負の圧力が水を木部から吸い上げる力となっています。篩管細胞は生きた細胞で隣に伴細胞を備えています。葉肉細胞で生産された光合成産物はショ糖の形で転流されます。葉肉細胞間は原形質連絡で繋がっており、ショ糖はここを通って細胞間を移動します。そして維管束鞘に至り、ついで内部の篩部柔細胞に達 します。柔細胞からは伴細胞を経て篩管細胞へ移動します。いずれも原形質連絡という通路を経ますが、柔細胞からは細胞壁経路(アポプラスト)でも移動します。原形質連絡を通らないでアポプラストから篩管細胞へのショ糖の移動(loadingといいます)は篩管細胞の細胞膜にあるATPaseポンプによって能動的にとりこまれるエネルギー消費過程です。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2008-11-13