一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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山の環境への重要度

質問者:   中学生   水銀燈
登録番号1842   登録日:2008-11-10
環境について考えていたとき山の環境を守ることと、海の環境を守るのとでは、どちらが優先するべきか疑問に思いました。私は、山の方が優先すべきだと考えましたが、実際はどのくらいの重要度があるのかまた、どのような面を優先的に守るべきか気になったので教えて下さい。
水銀燈 さま

 山と海の環境のどちらが地球全体の環境を守るために大切であるか、についてのご質問ですが、“環境”は余りにもカバーする範囲が広いので、陸地と海洋での植物による光合成による二酸化炭素の固定量から考えてみることにします。

 この質問コーナーの質問登録番号1390に対する回答にありますように、現在、1年間で地球全体の光合成によって炭素(C)として1226億トンの二酸化炭素(CO2)が固定されています。この値だけでは実感として捉まえにくいと思いますが、地球に住んでいる60億以上の人々がエネルギーとして消費している、(数億年前の石炭紀に貯えられた過去の光合成産物である)石油、石炭を燃焼して発生するCO2は、1年間に炭素(C)として64億トンです。このことから植物、藻類の光合成による二酸化炭素の固定量がいかに大量であるかがわかることと思います。しかし、石油、石炭をエネルギー源として使い始めた産業革命以後、200年の間に、大気CO2濃度は270 ppmから現在の380 ppmに増加してきました。これは石油、石炭から発生したCO2が大気に放出されたこと以外に、ブラジル、東南アジアなど熱帯地域の森林が焼畑農業などのためなくなり、森林の光合成が低下したことも原因です。

 海洋、陸地で、植物、藻類など光合成生物によって二酸化炭素が固定される割合はそれぞれ50%ずつです。さらに陸地のうち平原が地球での固定量の~10%, 山林が~40%となっています。平原での植物の光合成は食糧生産のためには非常に重要ですが、環境への寄与は山林、海洋に比べ余り大きくありません。海洋と陸地の面積割合は地球表面積のそれぞれ70%, 30%であるため、陸地の光合成の方が面積当たりの光合成量は、2倍以上高いことになります。陸地でも砂漠など水がないため植物がほとんど生えない地域もありますが、海洋でも藻類などの生育、光合成に必要な無機養分(少なくとも14種の元素)のない海域、不足している海域、無機養分のバランスの適当でない(大洋の中央などの)海域では藻類が生育できないため、“海の砂漠”とよばれています。この様な“海の砂漠”の光合成を増加させるため、ここで不足している無機養分のうち、最も少量で効果のある鉄イオンの(飛行機による)散布の効果などが研究されています。しかし、陸地に比べ海洋の環境を光合成に適当な条件にすることは一般的に困難です。海洋の光合成は沿岸地域の方が多く、これは川の水に含まれる適当な割合の無機養分が藻類の生育を促進するためです。海の光合成を守るために、川、海の水が環境汚染成分で汚されないようにすることも大切です。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二 
回答日:2008-11-12
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