一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ユレモもなぜゆれるのか?

質問者:   教員   kattan
登録番号1846   登録日:2008-11-14
藍藻のユレモは,顕微鏡下でゆれることが特徴だと,図鑑にもあり,自分自身も観察したことがあるのですが,なぜゆれるのでしょう。その動力源がわかりません。ブラウン運動でしょうか?そうすると,微小藻類は全てゆれることになると思うのですが?
kattan さま

生物は動物に典型的に見られるように、動くことによって最も適した環境に集まること、敵となる生物、毒物、物理的に不適当な環境から逃げることができるのが大きな特徴です。これは単細胞生物でも同様で、原核生物でも鞭毛をもっている細菌はこれによって移動できるため、生存上、有利な地位を占めることができます。酸素を発生する最初の光合成生物である藍藻(原核生物であることを示すために、シアノバクテリアとよばれることも多い)は、しかしながら、鞭毛をもっていません。

藍藻のユレモはその名前どおりに非常によく動きますが、最終的には光のある方向に移動します。ユレモは数珠状に細胞が連なっていますが、他の藍藻と同様に鞭毛はもっていません。数珠上に連なった各細胞の間にある細胞壁に粘質物を噴出する孔があり、この孔から噴出する粘質物の反作用で、粘質物を噴射するのと反対方向に、ユレモが接している面を滑って移動すると考えられています。現在のところ、ユレモが光のところに集まるための信号系については解明されていません。
鞭毛をもたない藍藻が移動するためにガス胞をもつ種もあります。これは細胞内に酸素、窒素、二酸化炭素のようなガスのみが通過できる蛋白質のみからできている小さな袋であるガス胞があり、ガス胞の数 その中のガスの量によって藍藻細胞の浮力が異なり、これによって海、湖沼などで適当な深さ、すなわち、適当な太陽光照度の深さに移動しています。このようにガス胞が細胞内で浮き袋の役割をして、光合成のための受光量を調節しています。
以上の藍藻の動きについては、井上 勲(2006)“藻類30億年の自然史、藻類から見る生物進化・地球・環境”(東海大学出版会)pp. 9-13, に述べられていることの要約で、さらに詳細についてはこの書籍をご覧下さい。

ブラウン運動はBrownが1827年、最初に植物の花粉を顕微鏡で観察しているときに花粉がいろんな方向に動くことから発見し、これが死んだ細胞でも、無機の微粉末でも生ずる物理的な熱運動によることが確かめられています。従って、数珠状に細胞が連なったユレモでは大きさ、形の上からみても、ブラウン運動はその動きにほとんど寄与していないと考えられます。また、光のあるところに集まるといった生物的に意味のある移動はブラウン運動では期待できません。

陸上植物は動くことはできませんが、しかし、葉の細胞の中で葉緑体は光の照度に対応して移動します。照度が高いと余り光を受けないように、光の進行方向に対して縦に並ぶように移動し、照度が低いと光をできるだけ受けられるように、光の進行方向に対して横に並ぶように細胞内で移動します。“みんなのひろば”“画像ギャラリー”にある、“光で動く葉緑体”(葉緑体定位運動)に光による葉緑体移動の画像が示されています。このようにして葉緑体の受光量が光合成にとって適当になるように調節しています。光照度が高すぎると過剰の光エネルギーによって活性酸素が生成するようになり光合成が阻害されるため、葉緑体に余り強い光が当たらないようにすることも必要です。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2008-11-17
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