質問者:
教員
佐藤 公
登録番号1870
登録日:2008-12-06
3度目の質問になります。いつもご丁寧な回答をありがとうございます。今回も生徒からの質問になります。発芽種子の呼吸商
「実験によって発芽種子の呼吸商を求めると、呼吸基質(貯蔵物質)として脂肪を用いてる場合は0.7前後の値が出る」と教科書や図説に出ています(それに類した入試問題も数多く見られます)。ところが、生徒が使用している同じ図説には、「発芽初期には、一般に呼吸商が小さくなる。これは、脂肪の炭水化物への変換に酸素が使われるためである。」とあり、コムギ種子とアマ種子(脂肪種子とある)の発芽0日目から16日目までの呼吸商のグラフが出ています。それを見ると、アマ種子は、1日目:1.0 2日目:0.6 4日目:0.4 8日目:0.4 12日目:0.6 16日目:0.7になっています。
そこで生徒から、16日目にやっと0.7になるのであれば、脂肪種子の呼吸商が0.7というのは変ではないか(0.7というのは、ある種子限定のことなのか(入試問題の多くトウゴマになっています))という質問を受けました。
これを含め、発芽種子の脂肪の炭水化物への変換の意味、種子発芽の呼吸商の変化(呼吸基質の変化)についてご教示頂ければと思います。よろしくお願い致します。
佐藤 公 さん:
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
呼吸物質として植物では炭水化物(主にデンプンですが、種によってイヌリン、マンナン、ガラクタンなどもあります)、脂肪、タンパク質が使われますが、動物ではタンパク質は飢餓状態の時のみに使われます。これらの呼吸物質が酸化されたときの呼吸商として炭水化物は1.0,脂肪は0.7、タンパク質はおよそ0.8となると教科書などでは書かれています。これらの値は、グルコース、トリパルミチン、C6程度のアミノ酸などを例として、完全酸化されたときの理論値です(グルコースやトリグリセライドの分子式に酸素が加わり、二酸化炭素と水に完全酸化されるときの必要な酸素モル数、生成する二酸化炭素モル数を算出して、呼吸商を計算すれば簡単に出される値です)。植物の発芽種子では、成長する胚の構造体を合成しなければなりませんから炭水化物が絶対に必要な栄養素となります。
さて、アマ種子の発芽過程で、記されているような呼吸商の変化はおそらく実測値でしょうから、どうしてこのような変化が起きると解釈すればよいかということになります。1日目は吸水して胚が動き始めた頃と考えられます。そのころはまだ脂肪が糖へ変換する装置は完成していないはずです。アマのような脂肪種子でもすぐに胚が利用できる炭水化物はありますので胚成長の初期はまず炭水化物を使用していると考えてよいと思います。次第に、脂肪酸のベータ酸化が始まりアセチルCoAが生成されますが、この過程でNADHやFADH2が出来、その水素が酸素に渡されますので酸素吸収が起きます。そのためこの段階では呼吸商は小さくなっていきます。本格的に脂肪が糖への変換が始まるとそれだけで理論上の呼吸商は0.36になりますので、0.4程度まで低下することは理解できます。胚成長に必要な糖が十分生成されれば、残りの脂肪は主に呼吸物質として使われますので呼吸商が上昇して0.7になることも理解できます。しかし、この0.7という値は、この時期に脂肪だけが呼吸物質となっているためと断定することは出来ません。脂肪から糖への変換も続いていますし、胚は出来た糖を呼吸物質として使いはじめますので、脂肪の糖への変換、脂肪の完全酸化、糖の完全酸化などが重なり合ってたまたま0.7という値になったと考えるべきだと思います。「脂肪種子の呼吸商が0.7というのは変ではないか」という生徒の疑問は当然のことです。「脂肪種子の呼吸商」ではなく「脂肪を基質としたときの呼吸商」が0.7と言うことですので、代謝系が日毎に変化する発芽種子を対象とするときには表現が正確でないと思います。また、糖だけや脂肪だけが呼吸物質に使われるような状況は生体では少ないと考えるべきです。
脂肪の炭水化物への変換の意味は上に少し触れましたが、脂肪酸はベータ酸化されるとアセチルCoAを生成し、これはTCA回路で酸化されてしまいます。TCA回路の中間物質はいくつかのアミノ酸などに炭素を供給しますが限られたものです。植物細胞の細胞壁を構成する多糖類や核酸、ビタミンなどの合成にはグルコースや解糖系、ペントースリン酸回路の中間産物が必要です。そのため、脂肪種子ではアセチルCoAを酸化しないで糖新生経路へ回すための特別の回路、グリオキシル酸回路、を発達させるのです。
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
呼吸物質として植物では炭水化物(主にデンプンですが、種によってイヌリン、マンナン、ガラクタンなどもあります)、脂肪、タンパク質が使われますが、動物ではタンパク質は飢餓状態の時のみに使われます。これらの呼吸物質が酸化されたときの呼吸商として炭水化物は1.0,脂肪は0.7、タンパク質はおよそ0.8となると教科書などでは書かれています。これらの値は、グルコース、トリパルミチン、C6程度のアミノ酸などを例として、完全酸化されたときの理論値です(グルコースやトリグリセライドの分子式に酸素が加わり、二酸化炭素と水に完全酸化されるときの必要な酸素モル数、生成する二酸化炭素モル数を算出して、呼吸商を計算すれば簡単に出される値です)。植物の発芽種子では、成長する胚の構造体を合成しなければなりませんから炭水化物が絶対に必要な栄養素となります。
さて、アマ種子の発芽過程で、記されているような呼吸商の変化はおそらく実測値でしょうから、どうしてこのような変化が起きると解釈すればよいかということになります。1日目は吸水して胚が動き始めた頃と考えられます。そのころはまだ脂肪が糖へ変換する装置は完成していないはずです。アマのような脂肪種子でもすぐに胚が利用できる炭水化物はありますので胚成長の初期はまず炭水化物を使用していると考えてよいと思います。次第に、脂肪酸のベータ酸化が始まりアセチルCoAが生成されますが、この過程でNADHやFADH2が出来、その水素が酸素に渡されますので酸素吸収が起きます。そのためこの段階では呼吸商は小さくなっていきます。本格的に脂肪が糖への変換が始まるとそれだけで理論上の呼吸商は0.36になりますので、0.4程度まで低下することは理解できます。胚成長に必要な糖が十分生成されれば、残りの脂肪は主に呼吸物質として使われますので呼吸商が上昇して0.7になることも理解できます。しかし、この0.7という値は、この時期に脂肪だけが呼吸物質となっているためと断定することは出来ません。脂肪から糖への変換も続いていますし、胚は出来た糖を呼吸物質として使いはじめますので、脂肪の糖への変換、脂肪の完全酸化、糖の完全酸化などが重なり合ってたまたま0.7という値になったと考えるべきだと思います。「脂肪種子の呼吸商が0.7というのは変ではないか」という生徒の疑問は当然のことです。「脂肪種子の呼吸商」ではなく「脂肪を基質としたときの呼吸商」が0.7と言うことですので、代謝系が日毎に変化する発芽種子を対象とするときには表現が正確でないと思います。また、糖だけや脂肪だけが呼吸物質に使われるような状況は生体では少ないと考えるべきです。
脂肪の炭水化物への変換の意味は上に少し触れましたが、脂肪酸はベータ酸化されるとアセチルCoAを生成し、これはTCA回路で酸化されてしまいます。TCA回路の中間物質はいくつかのアミノ酸などに炭素を供給しますが限られたものです。植物細胞の細胞壁を構成する多糖類や核酸、ビタミンなどの合成にはグルコースや解糖系、ペントースリン酸回路の中間産物が必要です。そのため、脂肪種子ではアセチルCoAを酸化しないで糖新生経路へ回すための特別の回路、グリオキシル酸回路、を発達させるのです。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-12-15
今関 英雅
回答日:2008-12-15