一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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酸成長が起こる理由

質問者:   中学生   38
登録番号1872   登録日:2008-12-07
最近カイワレ大根を育てているのですが、カイワレ大根の実験について調べているうちに「酸成長」という言葉を知りました。
このサイトの登録番号0331の中にも「酸成長」という言葉が出てきていて、なぜ酸性水に植物をつけたときのほうが中性水のときよりも成長が促進されるのかを知りたいと思いました。しかし調べても調べても、中学生の私に理解できるような言葉で書いてある文献が見つけられません。
酸成長の仕組みについて、できるだけ解りやすい言葉で教えてください。
38 様


 まず、植物の成長ということを考えてみます。植物は簡単に考えると茎(または枝)の先端と根の先端だけで成長が起きています。この場合成長とは伸びていく成長のことを指すことにします。それぞれの先端には成長点と俗にいわれるところがあり、そこでは絶えず細胞分裂が起きて細胞が増えています。これらの新しくできる細胞は次々と成長点から下の方へ押しやられて、それぞれの細胞はサイズを増していきます。主として縦に長い細胞になっていきます。そして、最終的には場所によりいろいろな働きや形の細胞にかわっていきます。これを分化といいます。従って植物の茎が伸びるのは、もちろん細胞の数が増えるわけですが、個々の細胞が大きくなることが一番大切なのです。

 さて、それでは、植物細胞はどのようにして大きくなるのでしょうか。簡単に言ってしまうと、細胞は周囲から水を吸って水ぶくれになるのです。縦に長い細胞になる(細胞伸長)には縦方向に水ぶくれになるのです。植物の細胞には外側に細胞壁(サイボウヘキ)がありますね。細胞壁はセルロースという繊維性の物質が主成分になってできています。若い細胞ではこのセルロース繊維はやわらかいセメントのようなほかの物質のなかに封じ込まれていて、細胞壁には柔軟性がありますが、古くなると、硬化をもたらす物質も加わって柔軟性を失いかたくなってしまいます。大きくなりつつある細胞の細胞壁は柔軟性があるので、細胞は水を吸うと、それに伴って引きのばされることになります。

 ところで、細胞は若ければそのままで、どんどん水を吸い続けることができるかというと、そうではなく、少なくともいくつかの植物ホルモンの働きが必要なのです。中でもオーキシンというホルモンは細胞が大きくなるためにはなくてはならないホルモンで、その働きは細胞壁を引きのばされ易くやわらかくすることです。しかし、細胞が古くなって硬化物質が加わり、固くなると、オーキシンは作用できなくなります。オーキシンの働きを研究してきた研究者は実験材料にエンドウ、インゲンマメ、キウリ、などの茎の切片を使いました。茎が最ものびる部分(先端より少し下の部分)の 5~ 10 mmの長さの切片を切り取ってオーキシンを含む水溶液に浸すと、切片はすぐにのび始めます。一番良い条件の場合は12時間ほどで、倍の長さまでになります。このとき、切片を構成している細胞は縦に大きくなっていることが顕微鏡でみるとわかります。細胞分裂はありません。この場合、細胞は水だけを吸っていますから、切片の重さは吸った水の分だけ重くなっています。

 さて、お待たせしました。ここで、「酸成長」の登場です。切片の伸長はオーシン以外でも起きる場合のあることが分かってきました。そのなかで、奇妙なことに、切片をオーキシンなどホルモンや特殊な物質を与えなくても、酸性の溶液に浸けるだけでオーキシンを与えた場合と同じように伸長することが見つかって、これが「酸成長」と呼ばれました。その後、オーキシンを与えると細胞壁自体が酸性になること、細胞壁を中性に調整するとオーキシンの働きがみられないこと、オーキシン以外に細胞壁を酸性化する物質を与えると、切片の伸長が起きることなどから、オーキシンは細胞壁を酸性化することによって細胞の伸長を引き起こしているのではないかという考えもだされ、酸成長仮説と呼ばれました。
ではなぜ、細胞壁が酸性になると細胞伸長が起きるのでしょうか。細胞がのびるために、細胞壁が柔らかくなる必要がありますが、そのためには、セメントの部分の構造が分解されなければならないとされています。そのような分解は細胞壁に存在する酵素の働きで起こります。そしてこれらの酵素が働き易い条件が酸性なのです。

 オーキシンの働きは単に細胞壁の酸性化をもたらすことだけではありません。細胞壁セメントの構成分の分解に関係する各種の酵素の合成引き起こしたりすることが重要な作用だと分かっています。細胞の伸長(したがって茎の成長)にはもっとほかに様々な要因が関係していて複雑です。あなたが、大学に進む頃にはもっと詳しく解明されているでしょう。それとも、あなた自身が将来そのような研究に関わることになるのかな。大いに疑問をもって学んで下さい。

JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2008-12-15
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