一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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クローバー(シロツメクサ)・カルス形成について

質問者:   中学生   ゆり
登録番号1877   登録日:2008-12-14
私は、現在中2で小5の頃から自由研究でクローバーについて研究しています。今回の研究のなかで、1本の花梗から花や葉が発生している変わったクローバー(変異型Cと呼んでいる)を発見しました。
変異型Cの発生している地点は数か所あり、その地点全てでグリホが含まれる除草剤が毎年4月中にクローバーの周りに散布されていました。そこで、6月に通常株にグリホ系の除草剤をクローバーの周りに散布したのですが、変異型Cは発生しませんでした。
このことから、毎年同じように除草剤を散布され、クローバーの体内に抗体がつくられた為、変わったクローバーが発生した、もしくは除草剤中の成分によって突然変異のようなことが起こったと考えたのですが、そのようなことはあるのでしょうか?この事について、来年の研究で変異型Cの発生した地点で使われた除草剤に共通した成分を通常株に散布してみたいのですが、いい実験方法がございましたら教えて下さい。
それから、通常クローバーと変異型C(水に浸けておいたら頭花の付け根から根が発生)と変異型C(根が無発生)の断面を60倍の双眼実体顕微鏡で観察し比較しました。すると、通常クローバーの葡匐茎と同じく白いところが変異型C(根が発生)と変異型C(根が無発生)の頭花の付け根の花梗の部分にありました。通常クローバーの頭花の付け根の花梗には、そのようにはなっていませんでした。変異型C(根が発生)は、すでに頭花の付け根の花梗から根や葉柄が発生していた為、葡匐茎のようなつくりへと変わっていったのだろうと思いました。でも、変異型C(根が無発生)は、根や葉柄が発生していないのにと不思議に思いました。このことについて、分かることがあたら教えて下さい。
それと、その白いものは何なのか教えて下さい。
あと、クローバーの花梗と葉柄の中心に、穴があいていたりあいていなかったりしていました。それはなぜですか?
それから、今カルス形成にとても興味をもっています。クローバーをカルス形成してみたいのですが、基本的なことを中心に教えて下さい。
これらの質問は、自分で実験をしているなかで疑問に思ったものや、自分では解決できなかったものです。長々と分かりにくい質問で申し訳ございませんが、宜しくお願い致します。
ゆり様

みんなの広場へのご質問有難うございました。頂いた質問の回答を東京大学の塚谷裕一先生にお願い致しましたところ、丁寧な回答をお寄せくだしました。少し難しいところもあるかも知れませんが、植物大好きなゆりさんのことですから、勉強して理解して下さるものと思っています。それでも、わからないことがあったら、遠慮しないで、また聞いて下さい。クローバーの観察をこれからも楽しく続けて下さい。


ゆりさん


 質問をありがとうございます。
 ご質問の意味を正確に理解しようと思って、大学の構内でクローバーが生えているところに行き、適当につみ取ってきて研究室で開いてみましたところ、たまたま四つ葉のクローバーでした。チャンスをもらって得をした気分です。

 さて、まず変異型が生まれたことと除草剤との関係ですが、除草剤のグリホサートは、葉緑体の中でのアミノ酸の合成を止めることで植物を枯らす薬ですので、突然変異の出現の直接の原因ではないと思います。また一般論として、突然変異を引き起こすような薬剤を使った場合でも、その効果が表現型として目に見えるようになるためには、私たちヒトやクローバーなど2倍体の生き物の場合、処理された個体の、次の次の世代まで待たないといけないのが普通です。これは、2倍体の場合、特定の遺伝子についてそれぞれ2つずつあるので、遺伝子が壊れるような普通の突然変異の場合、その効果が見えるためには、壊れた遺伝子を2つ揃えないといけないからです。ただし優性の突然変異ならば、処理された個体の段階で、表現型が見えることになりますが、優性の変異が出ることは、非常に稀です。

 また除草剤で特定の変異体、例えば変異型Cができるのかどうかを試すという実験は、そもそも実現困難です。なぜならば、除草剤であれなんであれ、突然変異を引き起こす薬剤は、特定の遺伝子を狙って突然変異を起こすことはなく、たまたま偶然によってある遺伝子が壊れるに過ぎないからです。ですから、クローバーの中にある沢山の遺伝子のうち、変異型Cと同じ遺伝子が、再びたまたま壊れる確率は、ものすごく低いものです。私たちも日常的に実験室で突然変異体を作り出しては目的の姿のものを探すような実験をしていますが、以前見つけたのを同じ変異体をまた見つけ出すのは、大変なことです。

 そういうわけで、除草剤を使ってまた変異型Cが出ないか、という実験は、実現不可能に近いと言えると思います。ちなみに、以上の話は、変異型Cが遺伝子の突然変異体だという仮定の下で考えた場合です。それ以外のご質問の可能性として、「抗体」というアイデアがありましたが、植物の場合は、体内に「抗体」ができることはありません。ですので、これも可能性はないと考えてください。

 さて別のご質問「白いもの」ですが、これはご質問を読んだだけでは、何を指しているのか分かりかねたので、冒頭にも書きましたが、実物を見てみることにしました。白いものというと、葉と茎の接点にあって茎を包んでいる薄い白い膜のことでしょうか?それ以外に白いものはなさそうなので、多分そうでしょうね。これは托葉です。クローバーのようなマメ科植物では、葉の付け根にしばしば作られる構造です。これが変異型だと頭花の付け根にあるということは、そこの部分が、葉としての性質をはっきり示しているということですね。もともとクローバーの頭花は、ご存じのように多数の花が集まった集合花です。クローバーの花の1つ1つは、腋芽が変形してできたものですから、その根本には必ず葉があります(一般に植物の腋芽は、葉と茎の境目にできますよね)。ただし花が目立つように、葉は退化して小さな苞葉になっています。したがって托葉もできません。しかし変異型では、それが、頭花の一番根本のところではちゃんとした葉になりかけているのでしょう。ですので、匍匐茎のようになっているというよりは、苞葉が普通の葉の性質を取り戻しかけている、という解釈の方が良いかと思います。そのために、水を与えられれば、通常の葉の付いた節の部分と同様に、根を出すのでしょう。


 それにしても面白い変異型ですね。クローバーは花が小さくて難しいかと思いますが、正常な株と掛け合わせができれば、どういう遺伝をするのか確かめることができそうです。チャレンジしてみてください。

 また、花梗と葉柄の中心に穴があるかどうかは、生理的なものでしょう。植物の器官の中は、普通はつまっているものですが、空気を通すためなどの理由で、細胞を自発的に失わせて中空になることは、良くあります。ネギの葉のように、若いときはちゃんと中もつまっていて、古くなると中空になるようなものもあります。

 最後に、カルスですが、これはいろいろな薬や道具を揃えないとできないので、まず学校の先生に聞いてみてください。中学校の教科書によっては、ニンジンのカルスを作る実験がでていますよね。基本的にはあれと同じようなことをすれば、良いわけです。ただし、カルスを作らせるためのホルモンの種類や濃度に関して、クローバーではどんなものが最適かは、いろいろ試してみないといけませんね。一応どんな植物でもとりあえずカルスになるおすすめは、アルファ・ナフタレン酢酸を0.1 mg/L、ベンジルアデニンを1.0 mg/L含むムラシゲ・スクーグ培地(ショ糖を 20g/L,寒天を0.8%,ビタミン類もMS処方かB5処方)です。これで具合が悪い場合、少しずつホルモンの濃度と量を変えてみて試行錯誤してみてください。いずれにせよ、カルス形成の実験は、培地を作るだけでもいろいろな道具が要りますし、植物の表面殺菌の手順もあります。また無菌操作のための施設も必要です。それらの全てについて、ちゃんと手順を説明すると、軽く薄い解説書くらいにはなりますので、実際にやっている先生に聞いて手取り足取りしてもらった方が良いと思います。一度、要領が分かれば、普通の家庭でもできます(私も高校生の頃、遊びで家でいろいろやっていました)頑張ってみてください。

塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科・教授)
JSPPサイエンス・アドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2008-12-25
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