一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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インゲンマメの発芽

質問者:   小学生   パンダ
登録番号1881   登録日:2008-12-24
はじめまして。
インゲンマメの根・くき・葉になる部分だけ植えても発芽はするんですか?
パンダ 様


質問コーナーへようこそ。
いいことに疑問がわきましたね。この質問は植物の成長についての基本的な問題を含んでいますので、詳しく説明しましょう。


「インゲンマメの発芽」というのはたぶん種子(たね)の発芽のことを指しているのだと思いますので、まず種子のことからはじめます。

種子はどの植物の種 子も基本は同じ構造からできています。ふつうはまず外側に種皮(シュヒ)があり、内側には植物の赤ちゃんに相当する「胚(ハイ)」と呼ばれるものがあり ます。種子の胚は一時成長がとまっている赤ちゃん植物だと思って下さい。胚は植物学の言葉でいうと、幼芽(ヨウガ)、子葉(シヨウ)、胚軸(ハイジク)と幼根(ヨウコン)とからなりたっていますが、それ以外には「胚乳(ハイニュウ)」という胚に養分を供給する部分があります。

植物の種類によっては胚乳がないか少ない種子もありますが、その場合はふつう、子葉が養分を貯えています。インゲンマメの種子には胚乳はなく、種皮をむいてみると、ピーナッツのようにラグビーのボールを縦に半分に割ったような形をした一対の子葉があります。この子葉が養分を貯えているので、私たちが食べるのはこの子葉です。子葉のつなぎ目のところに小さい胚軸とそれに続いて幼根があるのがわかります。また、胚軸の先端には短い軸(上胚軸といい、茎のことです)とその先に二枚のとても小さな葉がみられます。これを「幼芽(ヨウガ)」といいます。
種子が発芽するとき、一般に ”芽が出る”といいますが、これは種皮を突き破って中の胚が大きくなる、つまり休んでいた胚がふたたび成長をはじめることなのです。芽がでるといっても、ほとんどの場合最初に種皮から出てくるのは幼根で、幼芽はその後にあらわれます。ふつうは幼根が出たときを種子が発芽したとみなします。
  
植物の成長は幼根(成体では根)の先端(根端:コンタン)と幼芽(成体の植物では茎や枝の先端の頂芽)でおこなわれます。さて、あなたのいう葉、茎、根はそれぞれ種子のどの部分を指しているのでしょうか。

いま、胚のそれぞれの部分を切り取って、種子をまくと同じように土壌にまいたらどうなるか。これらは死んでしまって、多分くさってしまうでしょう。もし、胚から子葉だけを切り取って、残りの部分だけを植えたとすると、幼芽と幼根が残っているので、うまくいけば、ほんのちょっとだけ成長するかもしれません。しかし、子葉からの養分の供給がないので、すぐ死んでしまうでしょう。だから、質問への答は「発芽(成長)しません」です。


しかし、もしこれらの切り離した部分を特別な条件で培養すると、一人前の植物にまで育てることができます。植物の成長には根から吸い上げられる水と無機の物質(チッソ、カリ、などなど)に加えて、葉で光のもとに合成される [光合成(コウゴウセイ)といいます]砂糖のような有機物質などが必要です。

ふつう、発芽したばかりの植物は緑の葉が発達していませんので、葉が光合成をできるようになるまでは子葉や胚乳に貯えられた養分(有機物質)を使って成長をすすめます。そこで、土壌の無機物質や、葉でできる有機物質などを含んだ人工的な培地(バイチ)をガラス容器のなかに作り、そのなかで、これらの切り離した部分を育ててみます。幼芽はそのまま成長を続け、やがて、根ができてきます。幼根は根としてのび続けるでしょうが、そのままでは芽はできてきません。胚軸も子葉も条件によっては根ができたり、芽ができたりします。しかし、このような培養は簡単にはできません。まず、完全に無菌状態にしないといけません。でないと、栄養満点の培地にはたちどころにカビやバクテリアが繁殖してしまいます。そのほか、植物ホルモンなども必要とされます。植物のばらばらになった部分が、条件さえととのえば、個体を再生できる力を「全能性(ゼンノウセイ)」といいます。だから、一般に植物体のどの部分を切り取った切片でも、適切な培地と生育条件においてやれば、個体を再生することができます。極端にはたった一個の細胞からでも可能です。植物のこのような性質はほかの生物には見られない特徴です。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2009-01-05
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